坐間巳朗

眠れぬ夜は幽幽と 狐狸妖怪魑魅魍魎 怪異妖異を想ふべし

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最近の記事

仁丹塔

浅草にまた十二階が建つらしい。夕涼みがてらに見に行こうと、その日突然祖父の惣吉は当時七歳であった父惣一郎に云ったという。 十二階とはかつて明治大正期に同じ浅草に隆隆と聳え立ち、江戸川乱歩も『押繪と旅する男』の中で、 あれは一體、どこの魔法使ひが建てましたものか、實に途方もない變てこれんな代物でございましたよ。 と語り、大正十二年九月一日の関東大震災で崩壊した凌雲閣の通称である。惣一郎が見に行こうと云ったのはそれを模して建設途中の、後に「仁丹塔」と呼ばれる広告塔で、昭和七年

    • ひとり兎園會 ――虛舟―― 二次會

       人間は到底絶對の虛妄を談じ得るものではないといふことが、もしこの「うつぼ舟」から證明することになるやうなら、これもまた愉快なる一箇の發見と言はねばならぬ。 「うつぼ舟の話」より  柳田國男  口説「牡丹長者」は、柳田國男の「うつぼ舟の話」の中では熊本県の八代地方で歌われているとして引かれてあるが、他にも山口県宇部市、大分県佐伯市、由布市にも伝承されている。牡丹長者伝説は全国各地にあり、先の由布市の他に、福岡県三池郡高田町竹飯の満願寺には牡丹長者の墓と云われるものまで存在す

      • ひとり兎園會 ――虛舟――

         享和三年癸亥の春二月廿二日の午の時ばかりに、當時寄合席小笠原越中守知行所常陸國はらやどりといふ濱にて、沖のかたに舟の如きもの遙に見えしかば、浦人等小船あまた漕ぎ出だしつゝ、遂に濱邊に引きつけてよく見るに、その舟のかたち、譬へば香盒(ハコ)のごとくにしてまろく長さ三間あまり、上は硝子障子にして、チヤンをもて塗りつめ、底は鐵の板がねを段々筋のごとくに張りたり。海嚴にあたるとも打ち碎かれざる爲なるべし。上より内の透き徹りて隱れなきを、みな立ちよりて見てけるに、そのかたち異樣なるひ

        • ひとり兎園會 ――河童――

            ○河童  川太郎ともいふ                 『畫圖百鬼夜行 陰』より  鳥山石燕  伊勢神宮の主祭神は内宮に天照坐皇神大御神(あまてらしますすめおおみかみ)、外宮に豊受大御神(とようけのおおみかみ)、内宮の神体は八咫鏡を祀る。天照坐皇神大御神は皇室の御祖神、神宮は日本の総氏神、そこには脈々と「國體」が息衝いている。神宮式年遷宮の際には社殿の造り替えはもとより、殿舎、宇治橋、神宝も造り替えられるのだが、その時、神宝の須賀利御太刀(すがりのおんたち)の柄には

          ひとり兎園會 ーー幼きモノーー

          私がまだ二十代の頃の話。東京はN区を走る私鉄沿線、踏切の傍にそのアパートはあった。そこに住まうのはAさん夫婦と小学校低学年の年子の姉妹。そのご家族に「独身の一人暮らしじゃあ碌な物も食べてなかろう、たまにはちゃんとした手料理を食いに来い」と晩御飯に誘われた。そこの姉妹への土産にケーキなんぞをぶら下げてお呼ばれに応じた。 食卓に並んだ肉料理に魚料理、様々な手作りの家庭料理に舌鼓を打ちながら酒を飲み、一家団欒の暖かい時間を過ごしていると、姉妹の玩具箱からと電子音がなる。 「気にすん

          ひとり兎園會 ーー幼きモノーー