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学術誌のOpinionを読む(4)~マスクを巡る攻防戦~

 今回は、臨床医学の最高峰、New England Journal of Medicine(NEJM)誌に4月17日に掲載された、Correspondenceというコーナーを紹介します。「編集長へのお便り」といった軽めの投稿欄ですが、ここでは防護具を手に入れるために息詰まる攻防を繰り広げる医師の姿が描かれていて、まるで小説のようです。4月26日時点で、今週のNEJMの'Most Viewed Article'の1位でした。

N. Engl. J. Med. April 17, 2020(原文リンク
DOI: 10.1056/NEJMc2010025
Author:Andrew W. Artenstein, M.D.

 内科主任部長として私は、医療システムのサプライチェーン活動に携わったことはほとんどない。COVID-19の大流行はその慣習を変えてしまった。有能な医療従事者が懇切丁寧な措置を患者に施せるべく、彼らを守り抜くことが最も重要である。にもかかわらず、私たちは個人用防護具(PPE)の不足に悩まされ続けており、援軍が来る気配もない。

 我々の病院のサプライチェーン班は、ガウンや手袋、フェイスマスクやゴーグル、フェイスシールド、そしてN95マスクを確保するべく24時間体制で働いている。彼らはどれだけ不測の事態であっても、あらゆる手掛かりを探りながら、新しい日常に適応してきた。多額の資金が絡んだ複雑怪奇な取引も行われたが、最後の最後に、連邦政府に一枚上手を行かれて決裂した。その後は幸運もあったが、物資を手に入れるのはやはり容易ではなかった。

 メンバーの友人の知人が、一つの手がかりを与えてくれた。数時間かけて吟味した結果、我々はその仲介人の才能を確信し、三層マスクとN95の大規模な出荷を確保できる可能性に自信を抱くようになった。N95は、中国製のKN95呼吸器というものだった。装着テストに成功するかどうかを確認してほしいということで、サンプルが送られてきた。しかし、そのハードルをクリアしたからといって、このサンプルが大量に購入した商品を代表していないかもしれないという不安は残っていた。必要な資金を調達したところで-同様の品物に対して通常払う額の5倍以上だが、他の仲介人が要求する額よりはずっと安い-、我々は計画を実行に移した。サプライチェーン班の3人とフィットテスター
(訳注:N95の装着テストを行う人員であろう)は、東部海岸沿いの、工業用倉庫の近くの小さな空港へ飛んだ。車で到着した私は、取引を実行するかどうかの最終判断を下す役だった。食品輸送用のトラックに巧妙に偽装された2台のセミトレーラーが、我々を出迎えた。トラックが満タンになれば、積み荷が拘留されたり逆戻しにされたりする可能性を最小限にするべく、2つの異なるルートでマサチューセッツに戻る予定だ。

 出発予定時刻の数時間前に、予定していた数量の4分の1しか期待できないと告げられた。とにかく、手に入れられる物資は絶対に必要だったので、現地に向かった。到着すると、KN95呼吸器とフェイスマスクのパレット
(訳注:輸送・物流用に使う簀の子状の台)が荷降ろしされているのが見え、我々は歓喜した。いくつかの箱を開けて中身を調べ、ランダムに選んだ品が全体を代表していることを願った。電信送金で資金を送ろうとすると、FBIのエージェントが2人やって来て、バッジを見せて私に職務質問をし始めた。いいえ、この商品は転売や闇取引に使うものではありません。エージェントは私の身分証明書を確認し始めたので、私はPPEの出荷は病院向けであることを彼らに説得しようとした。無事私の身元が割れ、医療システムが緊急に必要としていると聞くと、エージェントは機器の箱を解放し、トラックに積み込んだ。しかしそれもつかの間、国土安全保障省が未だに我々のPPEを逆戻しにしようと考えていることを知り、再びショックを受けた。下院議員の介入につながるような電話が今すぐにでも入れば、せっかく手に入れたマスクも無駄になる。長い帰り道の間、私は緊張と不安のし通しで、真夜中になっても気持ちは落ち着かなかったが、その時電話がかかってきて、PPEを我々の倉庫に確保できたとの報を受けた。

 任務の成功がそれほど死活問題でなかったならば、この経験はカクテル・パーティでの良い話のネタになったであろう。高度に発展した、最先端の科学技術力と信じられない才能を持つ国で働く医療リーダーとして、自分の組織がこんな状況に直面すると想像したことが一度でもあっただろうか?もちろんなかった。しかし、このパンデミックに伴う厳しい制約に直面した時、医療従事者と患者にわずかな成功の見込みを与えるべく、我々はあらゆる手段を尽くさなければならない。これが、COVID-19時代に直面している我々の不幸な現実である。

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