安田純平パスポート発給拒否問題を考える

経緯

フリージャーナリストの安田純平さんが、パスポートの再発給を申請しているが、日本政府によって発給が拒否されてる。安田さんはフリージャーナリストとしてシリアで拘束されていて、国際問題に発展した。その後、安田さんは武装勢力から解放されトルコ経由で帰国した。

政府説明では、トルコによる安田さんの入国禁止措置があるので、日本国憲法の規定に基づき、入国を拒否されている人物へのパスポートは発給できないとのことだ。
※旅券法第13条「渡航先に施行されている法規によりその国に入ることを認められない者」に対し外務大臣は「一般旅券の発給又は渡航先の追加をしないことができる」

この説明は建前のものだろう。フリージャーナリストの安田さんがパスポートを取得してトルコに行くのかはわからない。そもそもトルコから入国禁んし措置を受けているのかもわからない。ただ、彼が再び海外に出れば紛争地域に赴き、拘束されて新たな国際問題に発展する可能性があり、それを防ぐのがパスポート発給拒否の本当の目的だろう。

筆者は外務省本省で働いていたことがあるが、パスポートの発給元は法務省だった気がする(記憶アイマイです)。移動の自由、法的権利に関することは法務省が管轄していたはずだ。外務省の領事局旅券課・外国人課の担当者は法務省の人だったか、または、法務省との連絡機関があった気がする。いずれにせよ、外務省が発給を拒否しているのでやはり外交問題を恐れているのだろう。

実務的な話としては、

安田さん パスポート申請

パスポートセンター担当者
「これ発給していいのか?本省に問い合わせよう」

外務省本省旅券課に問い合わせ

外務省旅券課
決裁書「フリージャーナリスト安田純平のパスポート申請について」作成

決裁書が外務省内で稟議に回される

海外邦人安全課 「これは安田さん本人の安全に関わる」
邦人テロ対策室  「テロから日本人を守る業務をおこなっている当室としては、テロに巻き込まれる可能性があるので、同意できない。」

決済書「フリージャーナリスト安田純平のパスポート申請について」却下。

安田さんのパスポート発給されず

こんな感じだろう。


国民国家の本分とパスポート

左翼的なメディアでは、安田さんの基本的人権を侵害する日本政府の対応だと批判しているが、日本政府にも日本人を守る義務があるのだ。

近代国民国家の根幹に係る理論に、社会契約説がある。自然状態では闘争ばかりの人間達が自由を一部国家に渡す代わりに、国家は国民を庇護する義務があるとする考え方だ。国民を庇護しない国家などから徴税される筋合いは一切ないのだ。この義務を怠った国家は市民革命などで転覆されてしまう。

この国民保護の精神は、パスポートを見れば書いている。

「日本国民である本旅券の所持人を通路故障なく旅行させ、かつ、同人に必要な保護扶助を与えられるよう、関係の諸官に要請する」by外務大臣

と書いてあるのだ。つまり、

「俺は、日本国の外務大臣だ!このパスポートの持ち主は日本人だ。この日本人に危害を加えた場合、日本国の要請を断ったことになる。日本国と外交問題になるぞ!」

と脅しているのだ。

近代国家というのはあまりに大きすぎて自分の税金が何に使われているのかもよくわからない。パスポートが発給されるのは当たり前だし、外国には日本領事館・大使館があって、外国で困った時は日本政府が守ってくれて当然だと日本国民は思っているだろう。

しかし、その裏には外務省領事局の方々の多大な努力があるのを忘れてはならない。安田さんは否定しているが、彼が拉致された時、外務省の方々は寝る間を惜しんで問題解決に奔走しただろう。(現地と本省との時差があるので、本省からみの緊急事態は夜中でも臨戦体制)


矛盾の所在

ここで矛盾が生じる。日本国憲法で日本国民は基本的人権が保障されている。そしてその権利には移動の自由も含まれている。移動の自由は日本国内だけで通用するとは規定がない。しかも、日本の国籍法には「国籍離脱の自由」があるのだ。海外に行くことができずに国籍離脱の自由を行使できるのか。つまり、日本国民は可能な限りにおいて海外に渡る権利を有している。

しかし、日本国政府は国民を保護する義務も有している。安田さんのようなパスポートを発給したら死の危険に突っ込んでいくような人を止めることもできるはずだ。普段意識しないかもしれないが、国内では日常的に移動の自由が制限されている。「キケン!立ち入り禁止!」という看板がこの例だ。「危険ですので先に進んではダメです。貴方の移動の自由は制限されます」というわけだ。

また、国民保護の義務だけではなく、先述の通り日本政府は安田さんが拉致され国際問題・外交問題に発展するのも恐れているだろう。

つまり、

安田さんの移動の自由VS国民の保護+外交問題の回避

が問題の構図だ。

解決法

安田さんの人権・自由を守りながら、パスポートを発給する方法がある。それは、、、、

パスポートから、「日本国民である本旅券の所持人を通路故障なく旅行させ、かつ、同人に必要な保護扶助を与えられるよう、関係の諸官に要請する」の文言を削除することだ

単純にパスポートに「この旅券の所持者は日本人である」のみ記述するのだ。

つまり、「安田さん。あなたは日本政府からの勧告にも関わらずパスポートを取得しました。海外であなたの身に危険が生じても日本政府は関与しませんし、貴方を保護しません」と宣言しているのと同じだ。

日本政府は、安田さんがテロリストに拉致されて、テロリストが日本政府に身代金を要求しても「支払いません」と回答する。拉致する側は何かしらのメリットを引き出すために拉致するのだ。この交渉を初めから放棄していれば問題を回避できる。相手国政府に問題解決を働きかけ外交問題に発展する必要もない。

これにより、日本国政府は国民の保護の義務を棄却し、外交問題も回避できる上、安田さんの人権・自由は保障される。

深海の探索や、スカイダイビングなど危険な娯楽をする前に「何が起きても訴えません」みたいな契約書にサインするのと同じ発想である。

最後に

役所は基本的に前例主義です。前例があることは許可を出すのが簡単ですが、前例がない案件については許可を出すのを尻込みするのです。

これは、役人がトラブルを避けたい、失敗した時に責任を負いたくないとのような保身に走る個人的心理が原因にあるでしょうし、正規の手続きができていないことに対して、どう対応したらいいのかわからないという事務的な理由もあるだろう。

パスポートから、「この日本人に必要な保護扶助を与えよ」という日本国外務大臣の要請を抜くのは、事務的はさほど難しくないだろう。ただ、前例がないので今後起こる問題の想定ができないので外務省は乗り気でないだろう。ただ、この問題を解決する可能性としてはあり得そうだ。


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