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コンプレックス

出会った男の人はみんな優しかった。容姿やしぐさを褒められると彼女に電気が流れ、求めに応じた。抱かれたからといって恋人になりたいとは思わなかった。一方的に好意を寄せる重い女と思われるより、会って求められるセックスフレンドが丁度良かった。

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学生から成人まで地方都市で育ち、就職も地元でした。趣味のサークルで集まったり、話をしたりするのが楽しかった。それでも一人で寂しいときは、チャットアプリに一言メッセージを入れれば誰かしら話相手になってくれた。慰める方法を彼女は知っていた。

夫と出会ったのは趣味のサークルだった。別れたり寄りを戻したり、長い付き合いからの結婚だった。夫が地方都市から都会へ転勤になったのがきっかけだった。彼女は仕事を辞め、実家から出て、夫と二人暮らしを始めた。知り合いの誰もいない都会。

交際当初から夫は淡白だったが、新婚生活でもそれは変わらなかった。夫は彼女が初めての恋人で、女性を知ったのも、彼女が初めてだった。性格も穏やかなため積極的に行動しない。したいときは夜中にもぞもぞと彼女の乳房をまさぐった。何度か断ると夜の小さな獣は息を潜めた。赤ん坊をあやすようだった。

「子供はいらない」そう夫に言われた。夫自身が子供っぽく、彼女に甘える存在だった。もし子供ができたら、妻の乳房が奪われてしまう。そんな考えが夫の中にあるから至ったのかもしれない。営みをしなくてもよいことに彼女は気が楽になった。

地方から出てきたとき、一生一緒にいる男性を得たが、周りに誰もいないという孤独も得た。夫は仕事に忙しく、彼女は一人でいることが多くなった。そんなときその空虚な心を満たしてくれたのがチャットアプリだった。

独身時代からのアカウントがそのままあったので、常連の人とも仲良くしたり、新規の人とも気兼ねなく話ができた。彼女が「お話したいです」とメッセージを入れると、すぐにそこに相手が現れた。たわいもない話で盛り上がり寂しい心を満たしてくれた。

ほとんどの男の人が彼女が女性であるとわかると口説いてきた。男の人の頭の中はセックスしかない。恋愛については無頓着である。彼女はそう考えていた。裏を返せば、したいことを本能のおもむくまま行動しようとする動物のようだ。かわいいものだと捉えれば、愛おしいとも思える。そんな前提の中で進む会話はなんでも楽しめた。

夫とはしたくないが、彼女には人並みに性欲があった。若いころ誰とも恋人にならずセックスフレンドがいたことを思い出した。あの時と同じ、心は許さなくとも体が満たされる感覚。もう一度それをすればよかった。

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「人妻はあと腐れないからいいよね」

10歳も年下の男が悪気もなくそう言った。可愛い顔をして女の扱いに長けていた。出会う前からチャットアプリでプレイの話で盛り上がっていた。したいことをすぐにすればよかった。

「プレゼント何にしたらいいかな」

仲良くなりすぎて本命の恋人のことを相談された。話をされるたびに心が引き裂かれる。好きになったらいけないとわかっていたのに。良い人を装うたびに心が辛くなり別れを告げた。

「アプリを始めたころから好きだったよ」

ずっと昔に始めたチャットアプリ。そのころから知っているという男性だった。本当か噓かわからないまま飲みに行った。良い人だと思ったので自分からホテルに誘った。

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いったい何人交わった男の人が出てくるのか。空也上人のように、彼女の口が開けばどんどんと出て来る気がしておかしかった。キャッキャッしながら話す様子を見ていると彼女だけ治外法権の中にいるのではないかとさえ思ってしまう。

「1年半ぶりに夫としたんです」

唐突に差し込んだ夫との営みの話。彼女が酔った勢いで夫を押し倒したという。それはそれで良かったのかもしれない。彼女自身は何も変わらないが、夫との関係は日々変化し続けるだろう。

恋愛体質は辛いイメージだと思っていたが、こんな奔放なありかたもあるのだと驚かされた。何者でもない彼女。様々な人とかかわって彼女がいる。僕の前にいてアイドルのような笑顔を向ける彼女は今を生きている。


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