炎の祝祭 ガイ・フォークス・ナイト
去る11月3日に文化の日として自由と平和を愛し、文化をすすめ終えた今日は、我々にとってはなんの変哲もない週末の1日である。
しかし、イギリス人にとっては今日11月5日は、炎を掲げ花火をあげる祝祭の日なのである。
今回はそんなガイ・フォークス・ナイトに湧いたイングランドについて取り上げたい。
由来
ガイ・フォークス(Guy Fawkes)とは16-17世紀に生きたイングランド人の名であり、「男性」あるいは「~なやつ」を意味する「Guy」の語源となった人物である。
ガイ・フォークスの名前は知らなくとも、彼を模したマスクに見覚えがある人も少なくないだろう。
Guy fawkes mask
Image by janjf93 from Pixabay
このマスクから察しがつく通り、このガイ・フォークスという男は必ずしもナイスガイだったというわけではなく、大逆罪で処刑されるという最期を遂げている。
時は1605年、プロテスタントであった当時のイングランド国王ジェームズ1世の治世のもとにおいて反カトリック政策がとられ、特に過激派カトリック教徒の間では不満が高まっていた。
そんな中過激派の一人であるロバート・ケイツビーは、ウエストミンスター宮殿で行われる議会の開会式で国王や議員たちが一堂に会する機会を狙って、爆発テロを起こして暗殺する計画を企てる。ケイツビーは仲間を募り、計画の準備を進めた。
そしてその計画の実行責任者に選ばれたのがガイ・フォークスである。
フォークスらは議事堂本会議室の真下にあった貯蔵庫を借り、そこに樽に入れた大量の火薬を運び込んだ。そして国会が開会される11月5日に計画を実行に移すべく、フォークスは前夜である11月4日に導火線をポケットに潜ませて36樽の火薬とともに貯蔵庫に身を隠した。
しかし、その夜突然貯蔵庫が開かれる。捜査の手が伸びたのである。そして治安判事トマス・ナイヴェットによってフォークスはあっけなく捕えられることになる。
実は数日前、テロによってカトリック教徒にも被害が及ぶことを懸念した何者かが、数少ないカトリック教徒の議員であったモンティーグル男爵に「議会初日に出席しないように」と書簡を通して警告を行っていたが、その情報がジェームズ1世に知られることとなり、議事堂の地下を捜索するようにとのお達しが出ていたのだ。
かくしてフォークスら首謀者は囚われの身となり、裁判の結果、大逆罪として首吊り・内臓抉り・四つ裂きの刑に処せられる。
以後カトリック教徒は2世紀以上に渡る更に激しい弾圧に襲われることになる。
参考:
一方で陰謀が未然に防がれ、王の命が守られたことを祝し、11月5日を祝日とする法律が制定された。
1859年に廃止され、現在は祝日ではない。
この日には花火や焚き火を行うことが習慣となり、特にガイ・フォークスを模した人形に火を放つことが一つの恒例行事となったことで、この日が今日ガイ・フォークス・ナイト(Guy Fawkes Night)と呼ばれる所以になっているのである。
今日
かつては反カトリックの色が強かったとされるガイ・フォークス・ナイトも今日ではその要素は薄れ、秋から冬へと移りゆく季節において花火と焚き火を楽しむ一つの風物詩的イベントとなっている。
それは私が住んでいたウォーキンガムでも例外ではなかった。
夜の帳が下りる頃、街の中心であるタウンホールの広場に、続々と人が集まり始める。
イベント開始予定の18時頃には、この街にこんなに人が居たのかと思わずにはいられないほどのごった返し具合になっていた。
そして、手に持った松明に火をともし合う。
そして花火会場へ向けての行進が始まるのだ。
行進は街の中心から、外れにあるCantley Parkまでの1.5km程度の道のりを征く。
行進を先導するのは音楽隊だ。
ガイ・フォークス・ナイトにおいては、以下のフレーズで始まる唄が唱えられるのが定番であるそうだ。
Remember, remember, the fifth of November, Gunpowder Treason and Plot
(忘れるな、忘れるな、11月5日のことを、火薬による反逆と陰謀を)
しかし楽団が奏でていたのはなぜか「サル・ゴリラ・チンパンジー」であった。
4世紀の時を経て、反逆と陰謀は忘れ去られてしまったのだろうか。
20分ほどで一団はCantley Parkへとたどり着く。
普段はなにもない広場だが、今日はお祭りである。
遊具や屋台が並び、気分を盛り上げてくれる。
しかし、本番はこれからである。
ひとしきり一行が広場についた頃、中央にある篝火の台に火が灯される。
王の無事を祝うためにと、かがり火は燃え盛る。
ガイ・フォークス・ナイトが別名ボンファイヤー・ナイト(bonfire:焚き火、かがり火)と呼ばれる所以である。
そしてあらかた火も収まった頃、カウントダウンと共に花火が打ち上げられる。
季節や文化的背景こそ違えども、日本人で言う夏祭りと同じような感覚で楽しまれているようだ。
11月ともなると外は肌寒く、人気なのはホットワインであるが、遊具や綿菓子ではしゃぐ子供は万国共通だ。
まぁ寒いなら寒いで、大人は屋内に退避してビールを飲むのだが。
都会
片田舎であるウォーキンガムで行われるガイ・フォークス・ナイトが地元の夏祭り・花火大会だとすると、やはり首都ロンドンでは隅田川の花火大会のような規模で行われる。
翌11月6日にロンドン東部のヴィクトリア・パークで行われる花火大会にも足を伸ばしてみた。
残念ながら今年も中止となったようだ。
ロンドンでも有数の歴史を持つ公園で行われるともなれば、やはり会場の規模も桁違いである。
どことなくフェスに来たような高揚感だ。
というかほぼフェスだ。
時間になると火が灯され、花火が彩る。
時には11月の寒空の下、長袖で楽しむ花火も悪くないかもしれない。
そんなことを思いながら秋の夜空が照らされる様を眺めていた。
なお帰りの駅でポスターを見かけ、後日近所の映画館へと足を運んだのはまた別のお話。
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