Airbnbが教えてくれたスタートアップをスケールさせるための7つの教訓
日本では民泊新法のおかげですっかりお世話になることがなくなってしまったAirbnb。今年IPOするだろうと言われており、4兆円近い時価総額がつきそうな気配(話題の日産自動車と同じくらいの規模)で、今年のIPOラッシュの中でも最も注目されるスタートアップの一つである。
そんなAirbnbも創業時にはなかなかトラクションが得られず、借金がかさみぎりぎりのところでY Combinator(YC)に拾われるのだが、その時にYC創業者であるPaul Grahamにアイデアを説明したところ「そんなことやる客が本当にいるのか?なんで?頭おかしいんじゃないのか?」とあきれられた話は有名で、こちらの記事にそのくだりが詳しく書いてあってなかなか面白い。
さて今日紹介するのはそのAirbnbに7年間務めた社員によるこちらのブログ。
彼がやっていたスタートアップがAirbnbに買収されてから7年間、Airbnbでプロダクトをスケールさせた経験から得られた7つの教訓を書いている。スタートアップ関連のブログは数多くあれど、これは最近読んだ中でもずば抜けて秀逸。ここに書かれていることはどんなスタートアップにもあてはまるだけではなく、コーポレートでイノベーションを起こそうとしている人、新規事業に取り組みたい人にも役に立つヒントが満載である。ここで紹介されている7つのポイントを簡単に取り上げるが、ぜひ時間をかけてゆっくり全部を原文で、さらにはそこからリンクされている記事も良記事ばかりなのでそちらも辿って読んでみてほしい。
1.競合優位性としての組織のカルチャー、価値観、そして儀式
Airbnbの創業者たちは組織としてのカルチャー、価値観を非常に重要視していた。そしてちょっとした遊び心が満載の儀式がいくつかあった。これはスタートアップだけでなく、大企業の中の組織であっても非常に重要なことだ。こういったところはAirbnbのプロダクトを使う顧客の立場でも見てくるものだが、何よりも重要なのは組織としてビジネスを進めていくうえでカルチャーや価値観を共有する仲間であるからこそ一つの大きな目標に向かってスピード感を持って動くことが出来るという点である。スタートアップのビジネスに困難は付きものであるが、困難に直面した時にそれを乗り越えていく力というのはこのカルチャーや価値観が生み出してくれる。
2.課題をはっきりと定義すること
どんなビジネスをやるにしても、顧客のどんな課題を解決するのかというのをはっきりと定義しなければならない。ここがはっきりとしていないとプロジェクトそのものがうまく進まなくなる。プロダクトのデザイン、プロトタイプ作りを始める前にとにかく何が課題なのかということを明確にすべきだ。簡単なプロジェクトであっても、課題の定義が曖昧だと議論が堂々巡りになってなかなか進まないものだが、非常に複雑なプロジェクトであっても課題設定が明確であればよりスムースに進めることができる。
3.本当にいいものを作るには、それをさらに超えるような野心的なゴール設定から
CEOのBrian Cheskyはチームが提案したゴールに対して、その倍の結果、時には10倍の結果を求めることで有名であった。振り返ってみると、結果的にはその一見無理とも思えるゴールに近い結果を実は残していたものだ。これはそうしたゴールが与えられることで、より大きな視点から物事を考えられるようになるからだ。
加えて、こうして設定したゴールにはきちんと責任者をアサインし、結果に対してコミットさせることである。そしてその責任者はチームのメンバーに対しても結果にコミットさせる。マネジメントの役割はそのチームが直面するであろうあらゆるハードルを取り除き、設定したゴールに向かってチームが進んでいくうえでの道しるべになることである。
そしてゴールが達成できなかったとしても、近づけたことでも評価をすること。無理と思えるようなゴール設定は、達成できなかったからといってネガティブな評価を与えるためにするのではない。大きく考えるための大きなゴール設定であり、達成できなかったとしてもまた次の大きな目標に向かって進むのみである。
4.できることからではなく、理想的な顧客体験からスタートし、それを逆に辿っていくべきである
何か顧客の課題を解決しようとするとき、何が可能かを考えていくよりも、まずどんな制約もないという前提に立って理想の顧客体験をイメージしてみることが大事だ。Amazonでも使われているこの手法はAirbnbでも非常にうまく機能した。顧客が直面する課題をどんな形で解決することが理想なのか?どんなものであればこれ以上ない体験を提供できるのか?こうして作られた理想像は現実にできることとはかけ離れているかもしれない。だがそのギャップを埋めるために、できるだけ問題点を小分けにしていくことで、それぞれの小さな課題を解決可能な形に分解していけばよい。そうすることで、常にたどり着くべきゴールが明確になり、ブレることなくそこに向かってプロダクトを作り上げていくことができる。
私自身ソニーにいた時にこれと全く逆のアプローチで失敗する例を何度も見てきた。特に日本企業によくみられる技術信仰が強い組織ほど陥りやすい罠である。こんな新しい技術があるからぜひこれを使って何かを作りたい、というのはもちろん間違っているわけではないが、まずはそれが顧客のどんな課題をどのように解決するのかというのが明確になっていなければならない。どんなに素晴らしい技術であっても、それが顧客の問題を解決するうえで本当に重要なものとなるのでなければ意味がない。理想の顧客体験があって、それを実現するうえでの技術であって初めて役に立つのだ。単に技術ありきで面白いかもというだけで進んでいった先に出来上がるのは、顧客のニーズを無視した独りよがりのプロダクトであり、それが成功するはずもないのだ。
5.組織設計をプロダクトとして考える
組織の設計はプロダクトを設計することと同じように考えればよい。プロダクトを作り上げるにはさまざま機能やパーツが必要になるが、組織も同様であり、できるだけその組織が必要なすべての機能を内包し、一つのゴールに向かって進んでいくために自律的に動けることが理想である。理想的な組織というのはブラックボックスのようなもので、放っておいても自然にアップデートがあり、すばらしい結果を残すものだ。
これは大企業で新規事業創出を担当する新しい組織を作るような場合にも非常に重要だ。何かを作ろうとするたびに既存の事業部のお世話にならなければならないような組織であると、そこでいちいちプロジェクトがスローダウン、あるいはストップすることにもなる。出島のような独立した組織がいいと言われるのはこのためだ。
組織が出来たらゴールを的確に設定することも重要だ。ゴールはなるべく少ない方がいい。またそのゴールはすぐにフィードバックを得ることが出来、インパクトがすぐに見える形であることが望ましい。
最後に、完璧な組織というのは存在しないということも認識すべきだ。組織はビジネスが進むにしたがって自然変わっていくべきものであり、どんな組織でも欠陥はあるもの。次の組織変更の時にそれがきちっとアドレスされれば良い。
6.すべてのことに関して高いレベルで仕事をすること
スタートアップは常にやらなければいけないことに対して、やるだけのリソースが極端に足りないものである。その中でも効率よく物事を進めていくためには、仕事のやりかたそのものを高いレベルで考え直すことが重要だ。たとえばメール、共有ドキュメント、ミーティング、プレゼンなど、惰性でやってしまっていること、もっと簡潔に済ませられること、さらにはそもそも必要がないことなどないだろうか?
大企業でありがちなのが意味のない定例や報告のためだけのミーティング。その定例は本当に必要なのか?メールでの連絡で済ませられないのか?ミーティングで求められる結果は何なのか?何かの決定をするのか?そのために必要でない人の時間まで奪っていないか?ミーティングでは必ずプレゼンが必要なのか?そのプレゼンを作るために費やす時間は組織としてのゴールを達成するために本当に必要な時間なのか?やる仕事一つ一つにたいして、常に疑問を持つこと。もっとよりよくすることはできないか?より効率よく結果を出すことは出来ないか?全く別の方法はないのか?常にこうしたことを自問自答しながら仕事を進めなければならない。
7."Less is more" : フォーカスすることの重要性
大きなプロジェクトを進めていくうえで組織として大きな目標をあげていても、実際に機能単位のチームで動くレベルではその大目標だけでは動きにくい。それぞれのチームをさらに細かく分け、それぞれが一つの問題を解決するためだけにフォーカスできるようにしたことで組織として大きな成果を得ることができた。その仕事にかける期間についても例えば四半期ごとというように区切り、その中で一つの目標に対してフォーカスするようにし、それがうまくいくことが見えればさらに期間を延ばしてそこを強化するというようなアプローチをとった。
プロダクトの機能改善についても同様のアプローチをとることが出来る。たとえばユーザーが何かをしようとしたとき、目の前にあることだけに集中できるように他の余計なことを排除してあげることが大きなユーザー体験改善につながることがよくあった。
成果をあげるためには常にフォーカスすること。フォーカスできてなければチームや期間を分割してフォーカスできる体制を作ることである。
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