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採用のMA活用は流行らない

数年前に「採用マーケティング」という言葉が流行ったと同時に、採用にMAツールを活用しようという風潮が盛り上がりましたが、その後、大きな活用事例も出ず沈静化した印象があります。単にブームが過ぎただけという説もありますが、そもそも採用でのMA活用が原理的に難しいために流行らないのだと考えています。


MA活用が注目された理由

そもそもなぜMA活用の話が盛り上がったかというと、採用活動におけるカジュアル面談の普及とナーチャリングの欠如が大きいからでしょう。カジュアル面談とは転職意欲の低い潜在層を集める施策ですから、今すぐ選考に進まないタレントプールが大量に発生します。BtoBマーケティングだと彼らを商談化させるためにメルマガを送ったり架電する施策が主流ですが、採用で同じことをやっている企業は皆無でしょう。ATSに面談記録だけ残し、候補者の応募待ちがほとんどのはずです。つまり、採用活動において既存タレントプールのナーチャリングが行われていないのです。

一方で、MAの仕組みを簡単に説明すると以下の通りです。

  • 自社で管理するドメインのサイトにトラッキングコードを埋めこむことで閲覧ユーザーにクッキーを埋めこむ

  • クッキーを埋めこまれたユーザーがフォーム送信すると、バイネームで自社サイト内の行動履歴を計測できる

BtoBマーケティングではこれを利用して、「見込客がサイトを再訪問したら社内に通知を送る」といったシナリオが組めます。導入検討のタイミングキャッチと呼ばれる施策ですが、採用でも同様に、候補者の転職意欲のタイミングキャッチができそうです。例えば、候補者が前回の面談から半年以上後に中途採用サイトを訪問していたら、転職意欲が高まって再訪した可能性が高いので、今連絡すれば面談のアポが取れそうです。MAでは通知の条件を絞ることもできるので、「Ruby経験3年以上のエンジニアが再訪した場合にCTOに通知する」なんてシナリオも組めます。

また、MAでは顧客データにメールを送れるので、「カジュアル面談したエンジニアには技術広報の情報を送る」「オファーを出したが辞退された人には最新の採用情報を送る」などのシナリオを組み、候補者の属性やステータスに合わせて効率的なコミュニケーションがとれそうです。従来だと面談後に候補者を連絡をとるにはメールやSNSのメッセージぐらいでしたが、これだと候補者の数が増えるほど送信の手間が増えます。

採用でMAを活用できない理由

ここまでMA活用の夢を語ってきましたが、残念ながらこれらは実現困難です。その理由はいくつかあります。

①社外サイトの行動履歴を計測できない

採用に携わる方ならご存じの通り、候補者は自社の採用サイトだけを見るわけではなく、採用媒体やnote、SNS、ATSなど様々なサイトを閲覧します。自社の採用サイトは見ていないが社員のSNSやnoteは見ており、候補者が転職検討している可能性もあるわけです。

よって、候補者の転職タイミングを正確に捕捉するには社外のサイトの行動履歴を計測する必要があるのですが、これが現状のMAでは実現不可能です。前述の通り、MAは自社で管理するドメインのサイトにしかトラッキングコードを埋めこめないため、コーポレートサイトやサービスサイト、中途採用サイトの行動履歴までしか計測できません。これでは候補者のタイミングキャッチに大量の取りこぼしが出てしまいます。

また、最近だとNotionで採用サイトを作る会社が増えていますが、NotionだとMAのトラッキングコードを埋めこむ方法が無いため、計測できる範囲はさらに狭まります。

もちろん、Notionやnote、Wantedlyをやめて採用サイトやブログを自社ドメインに一元化してゆけば計測範囲は広がります。各プラットフォームにコンテンツを置く「分散型メディア」以前のやり方に回帰するわけですが、これはさすがに時代錯誤感があります。

②ATSとの二重管理が発生する

多くの企業では候補者の情報をATSで管理していますが、ATSにはシナリオメールや行動履歴のトラッキング機能が無いため、MAにも情報を登録する必要があります。具体的には、

  1. ATSに候補者の情報や面談ステータスを登録する

  2. MAにも同じ情報を登録する

  3. その情報を元にリストを作成する

  4. メールを配信する

となるわけですが、候補者数が増えるほど、この二重登録作業がめんどくさいのは想像できると思います。

③候補者の母数を確保しづらい

MAのメルマガ機能を使って候補者をナーチャリングする場合、母数を増やす必要があります。一般的にメルマガのクリック率・CVRは2〜5%なので、仮にどちらも5%と仮定し、一次面接への誘導=コンバージョンのメールを送ると、1件の面接創出に1×5%×5%=400人の送信対象が必要です。この「400人」はスキル不足などで見送りになった人は含まず、採用可能性のあるタレントプールのみを指しています。

しかし、こんなに大量のタレントプールを持っている企業はごくわずかでしょう。CxOやマネージャーなどのハイレイヤーや優秀なポジションになるほど400人どころか40人の母集団を作るのも大変です。BtoC・BtoBマーケティングの場合は数千、数万件のリストを用意できた頃からMAの活用が始まりますが、採用ではそのスタートラインにも立てないわけです。

④候補者に架電しづらい

前述の通り、メルマガのみでコンバージョンさせようとすると大量の母数が必要なので、BtoBマーケティングでは架電を絡めてCVRを上げることが多いです。例えばクリック率5%と仮定して、100人にメールを送るとクリックする人は5人です。この5人はコンバージョンこそしていませんが、クリックしている以上興味があるはずなので、インサイドセールスが電話をかけて営業すれば商談化する可能性は高いです。クリック→架電からの商談化率が10〜30%程度なので、5人電話すれば1、2人は商談になる可能性があります。

同じことを採用でやろうとすると、メルマガをクリックした候補者に対し人事が架電することになりますが、これはかなりハードルが高いです。候補者の電話番号を把握していないことが多いでしょうし、toBに比べてtoCでは営業電話への嫌悪感がより強いので、電話をかけたとしても嫌われて連絡拒否される恐れがあります。

ナーチャリングの最適解を探す

②は機能アップデートでATSがMAの上位互換となれば解消される見込はありますが、①③④は昨今のコンテンツ運用や採用市場を考えると解消が難しいと私は考えています。

ではどうやって候補者をナーチャリングすべきかというと、私自身も最適解が思いついていません。行動履歴のトラッキングは諦め、シンプルなメルマガ配信をやるぐらいでしょうか。

  • メルマガツールを導入する

  • カジュアル面談時に「良ければメルマガ受診を希望されますか?」とオプトインを取り、許諾した人をメルマガツールに登録する

  • メルマガで情報を送る

    • 「全員に送るメルマガ」「職種ごとに送るメルマガ」と簡単なセグメント分けを行う

またはメルマガの配信を諦め、従来通りメールやSNSのメッセージでやる手もあると思います。よほどネームバリューのある企業でない限りタレントプールが数十人、数百人に達することは無いでしょうし、候補者への連絡頻度も週1・月1ではなく、せいぜい数ヶ月スパンが多いはずなので(候補者の転職意欲はすぐには変わらないため)、手動のメールでも十分可能でしょう。


私の採用の仕事については下記の記事をご覧ください。

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