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小脳と嚥下の関係について
こんにちは.
神経科学の在野研究です.
前回に引き続き,今回も”脊髄小脳変性症”に関連するお話をします.
本日のテーマは,”小脳疾患と嚥下の関係について”です.
小脳疾患,特に脊髄小脳変性症(SCD)において誤嚥は重篤な問題であり,誤嚥性肺炎や低栄養のリスクにつながってしまいます.
”なぜSCDで誤嚥性肺炎が多いのか?”
私はこの疑問に対して,
”運動失調のため,嚥下に関わる筋群の制御が出来ないのではないか”
という仮説を持っていました.
もう少し詳しく述べると,
・協調性の障害により,嚥下に関わる筋肉が適切な力とタイミングで働かない
→ うまく飲み込めない,気道が閉じない
→ 誤嚥
と考えていました.
つまり,協調性の障害が,嚥下の咽頭期以降に関与していると考えています.
しかしよく調べてみると,
・小脳と嚥下中枢が存在する脳幹に直接的な接続はなく,
・小脳の破壊実験において,小脳が機能しなくても嚥下反射は誘発される
ことが確かめられています.
ということは,嚥下に関わる筋群と運動失調は関係ないのでしょうか.
もしそうであれば,SCDの方の嚥下障害は,口腔期以前に原因があると考える必要があります.
しかし口腔期以前であれば,食形態・食事習慣の管理や意識づけで変えられる部分が多いはずのに,なぜこれほどまでSCDに誤嚥が多いのでしょうか.
また,純粋型(症状が失調症だけ)のSCDの方においても,誤嚥が多く発生してしまうのはなぜでしょうか.
この疑問を解決するため,小脳と嚥下障害の関係についてのレビュー論文を読んでみました.
Role Of Cerebellum In Deglutition And Deglutition Disorders (2014)
この論文の結論から述べますと,
小脳と嚥下障害には何かしらの関わりがありそうだが,
何が原因で,何がどう関わっているのか明らかになっていないことも多い.
ということです.
小脳病変と嚥下障害の関わりを明らかにするために,
① 解剖学的側面からの考察
② 嚥下中の小脳活動の観察から得られる知見
③ Case Study / 有病者(小脳病変)と嚥下障害の関連について
の3セクションで話が進んでいきます.
① 解剖学的側面からの考察
小脳は,嚥下中枢の存在する脳幹と解剖学的な接続を持っていません.
しかしながら,
(1)橋核を介した大脳皮質との接続
(2)大脳基底核との接続
を持っているため,これらの中継点を介して嚥下の制御に関わっているのではないかと述べられています.
つまり,嚥下中枢を直接制御しているわけではないが,中継点を介して間接的に制御しているのではないかということです.
② 嚥下中の小脳活動から得られる知見
①の知見により,小脳と嚥下中枢の機能的な接続は示唆されましたが,実際の嚥下中に小脳の活動は起きているのでしょうか.
その問いに答えるため,嚥下中の小脳の活動を調べた論文のレビューがまとめられています.
主に”fMRI”と,”PET”を使用して,嚥下における小脳の活性度を調べた論文が記載されています.
結論としては,嚥下中に小脳の活性化を認める報告は多数存在し,小脳が何かしら関与している可能性があると述べています.
③ Case Study / 有病者(小脳病変)と嚥下障害の関連について
ここまでのレビューにより,小脳と嚥下は機能的な接続を持ち,実際の嚥下中における小脳活動の活性化を支持する知見が多数存在します.
では,実際の臨床場面はどうなっているのでしょうか.
結論を述べますと,
脳卒中由来の小脳病変(小脳梗塞など)においては,小脳病変と嚥下障害の相関を支持する報告もあるが,支持しない報告も多数存在する.
ということです.
臨床場面に応用して考えると,
小脳病変=嚥下障害に対処しないと,あるいは小脳が悪いからある程度仕方ないよね
と短絡的に結びつけてしまうことは危険であり,その人の嚥下障害がなぜ生じているか細かく評価する必要がありそうです.
今後は健常者と小脳失調のVFに関する論文を読み進めてみたら,運動失調と嚥下を制御する筋群が関係あるのか,もう少し分かってきそうな気がしました.
それでは.
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