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161【財務的数値からオフィス移転の時期を判断する】元銀行員・地方在住・財務コンサルタントの思索




はじめに


今回は中小零細企業におけるオフィス移転のタイミングを見極めるという「オフィス環境の改善」をテーマに財務的切り口で記述します。実は筆者は、事業主・中小企業の経営者として6回ものオフィス移転を経験しています。20代の頃、銀行員・保険会社勤務時代では、オフィスを移転させた立場ではありませんが、勤務場所の異動・変更は5回も経験しています。オフィス環境の変化がもたらす影響を意識的にも無意識的にも様々なレベルで感じて来ました。その経験値を棚卸して整理し、財務コンサルティングの見地を加えた上で、中小零細企業経営者が知るべきオフィス移転に関するポイントを整理しようという試みです。もし少しでも興味あればぜひ最後までお読みください。

どんな財務状況が移転にベストか?


正直、十把一絡げに「この状態が王道でありベスト!」と言い切ることは難しいテーマです。しかしながら、銀行などの取引金融機関から「おっ!オフィス移転ですか。良いですね!企業が成長している証拠ですよ!ぜひ費用の一部は融資させてください!」と前向きに背中を押してもらえるような状況も一つの理想形と言えるのではないでしょうか?製造業・建設業・卸売業・小売業・サービス業など様々な業種・業界で身を置く市場の環境(外部環境)は当たり前ですが千差万別です。ただ、社内からも社外からも「ぜひ移転したい!」「移転するべきだ!」「移転によってやる気が上がります!」「訪問しやすくなり、お取引がしやすくなります。」といった前向きな発言が自然と出てくるような移転はきっと理想です。なぜなら、現場の数字を支えるのは社員・スタッフであり、取引先からの対応でも業績は左右されることが頻繁にあるからです。
オフィス移転によって生産性が上がり、その企業に内在されていた経営課題が解決に向かっていく大きなきっかけになるならば、費用を投資する意思決定をする経営者・経営幹部にとって願ったり叶ったりでしょう。

1. 財務的な判断材料となりうる切り口


中小零細企業がオフィス移転を検討する際に重要な財務的な切り口には、以下のようなものがあります。
①    分析するべきコスト
o   賃料:新しいオフィスの賃料が現在のオフィスと比較してどの程度増減するかを確認します。
o   移転費用:引っ越し費用、内装工事費用、現状回復費用などの総額を計算します。
o   移転による一時的業績の低下:引っ越し作業による一時的な売上の減少や、営業における機会損失により加算される費用を事前に計算します。
o   運営コスト: 新しいオフィスでの光熱費、通信費、清掃費などの運営コストを計算します。
②    資金繰りへの影響
o   移転に伴う費用を含めた資金繰り表の作成: 移転に伴う一時的に増加する支出や業績の悪化を概算でも良いので影響を織り込んだ上での資金繰り予定表の作成は必須と言えます。
③    ROI(投資対効果)
o   ROIの計算: 移転によって見込まれる、スタッフの生産性向上や取引先・販売先・顧客のアクセス向上による業績の向上などをきちんと計画に落とし込み、社内のスタッフや取引銀行へ事前に説明を行いましょう。

④    社員・スタッフの通勤費用
o   通勤費用の変動: 新しいオフィスの立地によって社員・スタッフの通勤費用がどの程度変動するかを計算します。
まずは、これらの切り口を使い、移転が企業にとって財務的に妥当かどうかを検証することをお勧めします。

2. オフィス移転時に確認すべき財務的数値とは


より具体的に判断材料となる指標を示します。まず大前提として、読者の方々には経営状態、つまり自社の“財務状態の向上が見込める可能性が高い移転でなければ意味がない”という考え方を持っていただきたいと思います。一時的に財務スコア(取引銀行が決算毎に算定している)が悪化するかも知れないが、次期決算からこういった点が改善するというストーリーを文面に起こし、社内や取引金融機関の承諾を取り付けることがベストです。
そして確認すべき財務的数値は以下の4つです。

・ギヤリング比率➡200%以内か?
計算式:有利子負債÷自己資本×100(%)
聞きなれない指標ですが、これは借入金に対して自己資本がどの程度あるのかを示す指標です。この指標が100%を切るほど借入が少なく、安全性が高い会社であることが示されます。移転検討のための目標は200%以内です。

・流動比率➡140%以上か?
計算式:流動資産÷流動負債×100(%)
流動比率とは、1年以内の短期の支払い能力を見る指標です。主に資金繰りの状態を表します。高ければ高いほど資金繰りの状態が良く、安全性が高いと見られます。目標は140%以上です。

・固定長期適合率➡80%以内か?
計算式:固定資産÷(自己資本+固定負債)×100(%)
固定長期適合率とは、機械など設備や土地・建物のような不動産である固定資産に投資した資金がどの程度長期資金(長期借入+自己資本)で賄われているのか?を見る指標です。低いほど安全性が高いと見られ、基準は80%以内です。

・インタレストカバレッジレシオ➡3倍以上か?
計算式:インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受取利息+受取配当金)÷支払利息
この指標では金利の支払い能力を示します。貸したお金に対する金利をどれだけ払う能力があるのか?を読み解くことができる指標で、とても重要な指標です。
※営業利益が黒字でなければ、この指標でのスコアは得られません。金利も支払えない企業とみなされます。営業黒字であることが移転には必要不可欠である要素であると筆者は考えています。

勘の鋭い読者の方ならお気づきかも知れませんが、説明した4つの指標は全て財務格付における配点が高く、小規模な企業であっても獲得しやすい項目です。細かい説明は割愛させていただきますが、取引金融機関は毎期決算書を預かり、財務的な格付を算定して不良債権となる可能性を正確に洗い出すプロセスを金融庁から求められています。中小零細企業が健全に経営していると判断される状態にあると「正常先」と判断されます。そうでない場合は「要注意先」と判断され、プロパー資金での追加融資は難しい、少し風邪を引いているような財務状態にあると判断されてしまいます。何をお伝えしたいのかといいますと、上記の指標は中小零細企業が正常先と判断されるために必要なクリアすべき水準を示しています。
財務的に健康体ではない企業が更に追加の投資を行い、オフィス移転を試みようとすれば、“身の程知らずな投資”、あるいは“むやみやたらな盲目的積極策”と取引金融機関に見なされてしまう恐れがあるため、最低限クリアして欲しい指標として指し示します。

オフィス移転は課題解決の糸口に


経営者が思っている以上に、オフィス移転による業績への影響はあると考えます。オフィス移転の際に、生産性を更に向上させるべく、オフィスのレイアウトや新しい事務機器を導入すれば、情報整理や導線が改善され、営業面での向上が図れます。チームでの情報連携や協力体制を作りづらいとすれば、その原因はひょっとすると現在のオフィス環境そのものにあるかも知れません。抜本的な課題解決を成し遂げる可能性をオフィス移転は秘めていると信じています。

組織力の向上にオフィス移転を利用する


実は盲点になりがちなのですが、この移転の動きそのものをプロジェクト化し、組織力向上の機会として最大限活用するという考え方があります。オフィス移転は経営者にとっても、社員・スタッフの両者にとってビッグイベントです。経営者のトップ営業に依存している企業であれば、この移転プロジェクトを社員・スタッフに裁量を与えゆだねることで、その企業に組織としての主体性育むことにもなると考えられます。

まとめ


・コスト面の上昇などいくつかの切り口で事前に移転の効果を検証することが必要である。
・移転する際に確認すべき財務数値は財務格付算定後、「正常先」判定を獲得しやすい4つの指標から判断すればよい。
・経営課題の克服や組織力の向上を成功させることは、オフィス移転において可能であると言える。
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株式会社なかむらコンサルタンツ
代表取締役 中村徳秀


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