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事業再生スペシャリスト河合拓氏の現場からの提言~巨大企業と伍するには

日本のアパレル小売業界は長らく「売上」を経営の優劣のモノサシとしてきましたが、経済が右肩上がりの時代が終焉したにもかかわらず、いたずらに「量」を売り、売上規模を追いかける経営を続けているため、過度な価格競争を招いています。成熟市場に降って湧いたコロナショックで、売上というKPIを追っていては在庫過多により経営破綻に直結するリスクがあることが浮き彫りになりました。本稿では、『生き残るアパレル 死ぬアパレル』(ダイヤモンド社)著者でターンアラウンドマネジャーの河合拓氏が、大多数の企業が巨大資本と互角に戦うための戦略について解説します。

コンテンツ
 1. PLではなくBSとC/Fを見よ
 2. 欠品率ではなく客単価を重視
 3. 成功体験が企業を亡ぼす
 4. 小売も商社も付加価値で勝負を

PLではなくBSとC/Fを見よ

※以下、河合氏の講演の要約です。
日本のアパレル産業は「差別化」が大変重要になる。アパレル市場規模は1990年には15兆円あった。それがこの30年で10兆円になった。しかし投入点数は2倍になっている。そして最も重要な指標であるプロパー消化率は40%を切っている。
要は単価が下がっているということだ。この30年間で35%から40%ほど下落している。

服が「美しさ」を自己表現するための1つのパーツに過ぎなくなったのが大きい。内から綺麗になって、カッコ良くなってシンプルな服を着る方が良い、という価値観に変わってきたといえる。
なのに未だに主要KPIが売上のままであり、商社マンの評価は運んだコンテナの数で決まる。

皆さん、一度BSを見てみてほしい。売上高に対する在庫(商品及び製品、仕掛品)の割合がどんどん上がり、確実に売上は減っているので現預金が減るあるいは借入金が増えていると思う。それくらい在庫は危険なものなのだ。
在庫の時価評価に際して、3年間は売れるのに1年で償却(評価減を計上)してしまうことで、会計制度に引きずられて自ら商品(の価値)を殺してしまうということも起こっている。

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大概の企業の原価率は50%くらいだが、値引きロスと償却ロスが原価率を大きくしている(上図)。逆に言えば、仕入れた商品を値下げせずに全部売り切れば、理論上、粗利率は企画原価率の逆数になる。儲かって仕方ない状態だ。これは空論ではない。例えばワークマンはオフ率が約3%で、償却期間は5年から10年なので、数年かけて売り切っていく。

私が再生にかかわった通販会社2社の実例がある。1社は下着がドル箱事業になっていて、もう1社は下着が大赤字になっていた。よく調べたら、ドル箱の方は償却期間が3~5年で、赤字の会社は1年だった。
つまり、最初の値付けと、売れ残った商品をいかに売り切るか。この2つを実行すれば粗利の面で“埋蔵金”が出てくる。

また、下図右側は縮小市場において昨対比マイナス5%の売上高目標を立てたケース、左側はプラス5%の売上高目標を立てたケースだ。右側の方が左側よりも利益額が大きくなる。左側の場合、プラスの売上高目標に見合う在庫を用意するので、当然ながら売れ残る。
マイナス目標にすると値引きロスと償却ロスがなくなるため利益が増えるというわけだ。

欠品率ではなく客単価を重視

成熟市場でのMDは、成長市場のMDとは全く違うことを肝に銘じるべきだ。シーズンは4つではなく8つに細分化される。

※続きは下記リンクからご覧になれます(無料)。