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ユニクロ実質9%値下げが意味するものを在庫の視点から考える

ユニクロとジーユーを展開する株式会社ファーストリテイリングが2021年3月12日から、国内で価格を実質9.1%値下げしています。新型コロナウイルス感染拡大下の20年夏以降、小売業界で大手企業による値下げの動きが相次ぐなか、本稿では縮小市場である国内小売市場における価格競争について考えてみたいと思います。

税抜き価格をそのまま税込み価格に“据え置き”

ファーストリテイリングは2021年3月4日付の全国紙に掲載された広告で、商品価格を消費税込みで表示することが本年4月1日から義務付けられることに合わせ、従来の税抜き価格での表示を3月12日からそのまま税込み価格にすることを表明した。例えば、従来は1990円のタグが付いている商品はレジで税込み2189円を支払っていたが、3月12日以降はタグの金額がそのまま税込み価格となるので、支払額は1990円に減る。

当広告には「毎日の生活に寄り添った服であること。毎日の生活になくてはならない服であること。ユニクロはこれからも、LifeWearをお届けしていきます」というメッセージが記されている。

何のことはない、実質的な9%の値下げである。ファーストリテイリングはコロナ危機下でも圧倒的な好業績を残しており、第三者の視点ではこのような値下げをする必要はないのではないかと考えてしまう。
しかし、同社はもっと深く、遠く、未来を洞察していたようだ。キーワードは「人口減少」と「市場縮小」だ。

価格競争で一気にカタを付けに来た

ここからは、Zaikology Newsの運営元であるフルカイテン代表・瀬川直寛の提言を引用する。

コロナ禍の影響はまだまだ続いていますが、人口動態からして日本の小売市場は今後、長期間にわたり需要の消失が明らかです。2019年一年間で50万人の人口が減りました。2025年からは約50年にわたって毎年100万人前後の人口が減っていくことが明らかになっています。

つまり、2025年以降、コロナ危機で起こったのと同じような需要消失が続くということだ。そうした縮小市場で惹起されるのが、顧客の奪い合いによる過度な価格競争であり、実際に価格競争は既に始まっている。
2020年夏以降、ギャップジャパンや良品計画が定価を下げたほか、ジーユーが21年春夏物を最大3割値下げした。アパレル以外でも西友やイオンリテールなどが日用品等を中心に値下げに動いている。

大手企業ほど店舗網が大きいため固定費負担が重く、値下げによって集客数を確保しなければ固定費をカバーするだけの売上を賄えないという事情があります。一方で、資本力で優位な大企業ほど値下げ余力があるのも事実でしょう。このため消費者の生活防衛意識に合わせて値下げを実行することで、客の奪い合いを制しようとしているとみられます。

ただ、小売業界を支える大多数の中堅・中小の会社が大資本の会社に価格競争を挑んでも勝ち目がないのは明白です。ここでポイントとなるのが、「粗利」を追うことです。いたずらに売上規模を追わなくても粗利を増やすことは可能だからです。

縮小市場では、従来のように売上規模を追うと価格競争に巻き込まれて利益を失います。2021年は、「粗利第一」の経営へビジネスモデルを転換する潮目の一年になるといえるでしょう。

縮小市場だからこそ商品・売り場・人材に投資を

売上規模を追わずに粗利を増やす際にポイントとなるのが在庫だ。
コロナ禍の下、特にアパレル産業では各社とも仕入れを抑制して在庫を減らすとともに、在庫の現金化、店舗統廃合等による固定費削減に取り組んできたが、在庫が減った分だけ売上は減ることから、従来と同じビジネスモデルを続けていては在庫の減少は事業縮小につながるだけとなる。

大事なことは、少ない量の在庫で売上・粗利・キャッシュフローを最大化させるために「売り方の質」を改善することであり、増加したキャッシュを原資として商品の付加価値向上に取り組むことだと考えます。
こうした付加価値競争へ舵を切ることが、大手小売が仕掛ける価格競争に巻き込まれないためには必須となるのです。

「付加価値競争」と言うと聞き慣れないかもしれませんが、要は小売業の顧客接点となる商品、売り場(実店舗・ECサイト)、販売スタッフの3要素を起点にしていかに消費者へ体験価値を提供できるかを競うということです。

付加価値を生むためには、当然ながら投資が必要になる。
 ①商品原価への投資
 ➁売り場改善に向けた投資
 ➂販売スタッフへの投資(人材教育、待遇改善)
具体的にはこの3つだろう。

そして、投資の唯一の原資となるのは売上規模ではなく粗利だ。
ただ、粗利は商品原価だけで決まるわけではない。大量生産によって商品原価を下げても、在庫過多による値引き販売や評価減(棚卸資産評価損)で粗利は容赦なく減少してしまうからだ。

むしろ商品原価には投資をして商品の付加価値を上げ、値引きや評価減を抑制することで粗利を増やすビジネスモデルが、価格競争に巻き込まれないためには必須となる。

ファーストリテイリングによる今般の実質値下げをきっかけとして、多くの企業経営者にビジネスモデル変革の潮目の真っただ中に自身がいることに気付いていただくとともに、ビジネスモデル変革のタイムリミットは人口減少が加速する2025年辺りになることを是非とも認識していただきたいと思っています。