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【レポート】第8回ライブ・エンターテイメントEXPO セミナー 「ZAIKOが考えるライブのデジタル化で起こる収益の複線化」

こんにちは!ZAIKO編集部です。

ZAIKOが初出展を果たした「第8回ライブ・エンターテイメントEXPO」の最終日にあたる2021年2月26日(金)に、ZAIKO COOのローレンが音楽ジャーナリストの柴氏とセミナーに登壇。

「ZAIKOが考えるライブのデジタル化で起こる収益の複線化 〜D2Fの可能性〜」と題したセミナーには多くの来場者が参加し、メディアからの取材もたくさんいただきました。

今回は、当日話された内容を皆さんに分かりやすく伝えられればと、レポート記事として、セミナーでモデレーターを勤めていただいた柴氏に執筆をお願いしました!

ZAIKOスタッフによるEXPOの現地レポートもあわせてご覧ください。

柴 那典(しば とものり)
1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立、各方面にて音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は「AERA」「ナタリー」「CINRA」「MUSICA」「リアルサウンド」など。日経MJにてコラム「柴那典の新音学」、雑誌「CONTINUE」にて「アニメ × ロック列伝」、BOOKBANGにて「平成ヒット曲史」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。
ブログ「日々の音色とことば」
Twitter @shiba710
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2021年2月26日(金)、「ライブ・エンターテイメントEXPO」にて、「ZAIKOが考えるライブのデジタル化で起こる収益の複線化 〜D2Fの可能性〜」と題したセミナーのモデレーターを担当した。

登壇したのは電子チケット販売プラットフォームZAIKOのCOOローレン・ローズ・コーカー氏。セミナーで語られたのは、2020年に大きく拡大した有料ライブ配信サービスの実情だけでなく、その先の可能性について。過渡期の真っ只中にある音楽ビジネス全体における新しい価値観を示唆する内容になったのではないかと思う。

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プレゼンテーションは、2020年の振り返りからスタートした。新型コロナウイルスの感染拡大でイベントの延期や中止が相次いだ2020年3月上旬に、ZAIKOはいち早く電子チケット制有料ライブ配信機能を実装している。「自主開発のシステムなので、急ピッチで開発を進めることができました」とのことで、開始から半年で配信チケットの販売枚数は100万枚を超え、ライブ・エンターテイメント業界全体が苦境に立たされる中で急成長を遂げてきた。

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ローレン氏は「チケットの形で売り出したことが大きかった」と昨年の動きを振り返った。ZAIKOのローンチ以前にも有料のライブ配信サービス自体はあったが、そのほとんどは、投げ銭やペイパービューのモデルによるもの。そんな中、リアルライブと同じくチケットを購入する方式でサービスを開始したことで、オンラインでライブを観る習慣が広まったという。

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そして、セミナーは本題の「D2F(ダイレクト・トゥ・ファン)」へ。ZAIKOが軸としている考え方であるD2F、すなわち「ファンと直接繋がる時代」というのはどういうことなのか、語ってもらった。

ZAIKOの考えるD2Fとは、電子チケット販売を通じてアーティストとファンが直接結びつく仕組みのこと。ローレン氏は「コロナ以前からアーティストやイベント主催者が直接ファンにチケットを販売するシステムを作りたいと考えていました」とサービスの成り立ちを語り、大手プレイガイドや動画配信サービスなど各社のライブ配信プラットフォームが乱立する中でのZAIKOのユニークなシステムについて解説した。

ローレン氏はZAIKOの特徴を「アーティストやイベント主催者が独自のプレイガイドを構築できる」という点から説明。多くのイベントを一つのサイトで取り扱う既存のプレイガイドとの違いについては、以下のように3つのポイントから説明した。

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「1つ目はスピードです。好きなタイミングでチケットを作成して販売を開始することができます。2つ目はコストです。最低限の仕組みでコストダウンしており、まだ販売手数料も自由に設定することができます。3つ目はデータです。ZAIKOでは、イベントのチケットを購入したユーザーのデータを、個人情報をのぞいて主催者に全てお見せします。今までほとんどのサービスではブラックボックスになっていましたが、住んでいる都市、年齢、性別、好きなアーティスト、イベントを知ったきっかけなどのデータをCRMツールを使って分析できます。主催者がチケット購入者に次のイベントを知らせるメールを送ることもできます」

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これによって、ZAIKOでは自由度の高いイベント設定が可能になっているとのこと。チケット販売ページのデザインだけでなく、販売期間や仕様なども主催者側が設定しすぐに反映することが可能で、リアルとデジタルを組み合わせたハイブリッドイベントの「配信チケット」と「会場チケット」の両方を一つのページで販売したり、チケットに限定グッズを組み合わせたりすることも行われているとのことだ。

後半では、こうしたD2Fの考え方が音楽業界全体の大きなトレンドとなり、アーティストやイベント主催者に新たな可能性が広がっていることについて語られた。まず、ローレン氏はこう指摘する。

「Spotifyなどのストリーミングサービスでは、再生回数におけるインディペンデント・アーティストの割合が増えてきています。特に2020年には、日本でもアメリカでも、音楽マーケット全体でインディペンデント・アーティストのシェアが大きくなりました」

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このことによって、ローレン氏は「アーティストに選択肢が増えてきています。これまでは大手レコード会社や事務所に所属して全てを任せる形が一般的でしたが、アーティストにとっても、自分自身でやるところと、誰かにサポートしてもらうところを選べるようになってきました」と状況の変化を解説。こうした変化によって、アーティストやそのチームがユーザーのデータ分析を行うことができるサービスのニーズはより大きくなっているとのことだ。

「たとえば、ストリーミングで再生回数が増えたらすぐにイベントを作ってチケットを販売するというように、リアルタイムの反応を見て動くことが必要になっていくと思います。私たちは、そういう将来の普通になるようなツールを開発しています」

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こうしたD2F時代には、収益の多角化も可能になるという。これまでライブの収益はチケット収入と現場でのグッズ売上がほぼ全てを占めていたが、デジタルイベントでは、投げ銭やサブスクリプション、ライブコマースなどマネタイズのポイントが多様化。「たとえばリアルライブを開催しながら配信のお客さんが投げ銭をするようなこともできます」と、リアルとデジタルのハイブリッドイベントにおける新たなアイディアも示された。

また、ZAIKOでは、ファンの声を取り入れることでライブの内容を変化させていくアーティストも多いという。その変化を「単なるライブ配信ではなく“デジタルイベント”と呼べるものに進化しています」とローレン氏は語った。

「最初は“無観客ライブ”でした。もともと会場でやろうとしていたライブをそのまま配信した。今は最初の企画段階からオンラインでやることを前提に、ファンが喜ぶデジタルイベントはどういうものかをアーティストが考えています。たとえば楽屋でのトークがあったり、リアルライブでは見れないものを見せたりする例が多いですね」

当初のオンラインライブはリアルライブと同じような2時間強のステージパフォーマンスを映像配信する例が大半だったが、繰り返し開催するうちにトークを取り入れたり時間を短くしたりと、デジタルイベントならではの工夫を見せるアーティストが増えていったという。

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「毎月イベントをやっているようなアーティストは、ファンからのフィードバックをもとに『ここはよかった』とか『ここが盛り上がった』と検証できる。それをもとに次のイベントを企画する。続けることでデジタルイベントの売上が増していきます。これまでの全国ツアーでは毎回同じセットリストで2時間強のライブをやるというのが一般的でしたが、デジタルイベントは毎回内容を変える必要があります。でも、時間はもっと短くていいです。2時間スクリーンを観るのは疲れるのもあって、45分や1時間のデジタルイベントも増えています」

最後には、多言語対応、多通貨対応、独自の海外プロモーションパックを準備したZAIKOならではのグローバルな展開の可能性についても語られた。

コロナ禍が収束した後にも、デジタルイベント市場は拡大が見込まれている。地方在住のファンや子育て中などで時間に融通が利かないファンや、日本になかなか来ることのできない海外のファンにとっても、デジタルイベントはアーティストと時間を共にする貴重な機会になるはずだ。

ライブ・エンターテイメントの新たな様式に期待が高まるプレゼンテーションだった。