腰にDualSenseを擬すのだ

不自然な姿勢での作業を2~3時間ほど続けていたからか、腰をいわしてしまった。筋肉痛のたぐいだと思うが、スポーツをしなくなってからはこういうことが漸次増加するようになった。悲しいことである。これから身体は衰えていく一方だ。可能なかぎり早く全身義体化したいものである。僕はすでに眼内レンズというものを眼のなかに挿入している。不具合を起こして除去された天然モノの水晶体のかわりだ。その部分だけ、ちょっとしたサイボーグなのである。だから身体の機械化という課題については一切の躊躇がない。拒絶反応が出たりバグが起きたりという、高度な機械化につきものの弊害が出来するかもしれないが、それは「ほとんど生身」の現状もさほど変わらない。昨日まで腰痛に悩まされていたくらいだし、ついさっきまで原因不明の嘔吐感にえずいていたところだ。例によってコーヒーの飲みすぎだろうが。
けれどもDualSenseが握れなくなることだけは避けたい。義手を装着すれば、おそらくDbD3000時間プレイの研鑽でみにつけたスティックさばきは我がナチュラルなマニピュレータとともに喪われてしまうだろう。もっとも、脳からの信号を完全に反映する高度な義肢が一般に流通するならば、その信号をそのままコンソールに出力することも造作なくなるだろう。ゲームをするのに、そもそもパッドやキーボードをさわる必要すらなくなるというわけだ。
ただ、これにはちょっとした問題提起をしたい。「脳内で思考した情報をダイレクトに出力するより、いちど言語化したものをキーボードで打つプロセスを介したほうが速かった」としたらどうだろう。攻殻でも手がパシッと割れたドクターが高速タイピングをやってたわけだが、あれは一種の考証のすえに産み出された結果なんじゃなかろうか。一部では便宜上、みたいな感じで触れられているが、単純に「じつはそっちのほうが効率がいい」といっているような気さえする。あるいは思考をイメージで行う種類の人間はどうだろう。多くの人間は母国語を主体として思考していると思うが、中には概念それ自体で思考している人間もいる。イメージは直接伝達できないから、当然何らかの形で「出力」する必要がある。それが言語だったりコードだったりするわけだ。
ゲームも同様に、パッドやキーボードから受け付けたプレイヤーの入力はある種のコード、つまり文字情報であって、その入力情報をもとに、あらかじめプログラムされた挙動をゲーム内で動作させているわけだから、やはりアナログに人間が「コントローラ」を操作するほうがあるいは都合がよいのかもしれない。DbDのようなゲームが普及しているのはそれほど高度な、生物的な操作を要求されないからで、走る、板を倒す、武器を振るといった定式化された「行動のプリセット」があらかじめ用意されているからに他ならない。それはせいぜいが両の手で握るパッドについているボタンに割り振れる程度の量であり、だからこそ我々は思考→出力のディレイを感じることなくDbDを遊ぶことができている。
とはいえゲームとはたいてい、ゲーム内のプレイアブルキャラクターに人間の動きを模倣した挙動をさせている。とりわけアクションゲームでは「動き」そのものを表現しているため、コードに変換された情報をボタンにマッピングし、プレイヤーが押下することで入力が完了する、というよりも脳からダイレクトに入力したほうが効率的であるような気もする。それはちょうど、人間が自分の脚に「動け」と命令せずとも脚を動かすことができるように。
VRゲームにはいまだにコントローラがあるが、もしそれを廃することができたとしたら、どちらのほうがよいだろうか。脳からの信号をメインにして、センサ類からの取得情報はあくまで補助的に機能させる、前頭葉直通ゲーミング。もちろん、VRゲームからコントローラをなくすことは必ずしもゲーム体験に寄与するとは言いがたい。プレイヤーの没入感を高めることに関して言えば、コントローラがゲーム内で得られる感触、振動、手触りなどを再現する技術がある。最近ではDualSenseのアダプティブトリガー、ハプティックフィードバックがこれにあたる。これらは我々が所与のマニピュレータを使ってゲームをすることで初めて機能する。脳に感覚を「書き込む」ことが可能だとして、それを倫理上認めるかの議論が延々続いたあとで、限定的になら、という前置きを踏まえて晴れて実装、となれば物を触る感覚もピストルのトリガを引いてシアがカチッと切れる感覚も、すべて脳内でエミュレートする完全にコントローラ‐レスなゲーム環境が誕生するだろう。しかし感覚を書き込めるなら当然視覚も書き込めるわけで、こうなるとコンピュータの見せるマトリックスということになり、それはもはや(現在の意味においての)VRゲームとは言えない。

などとかんがえているうちに腰痛はきれいさっぱり消えてしまった。はあ~よかった。なんも考えずにゲームしよ。

生きるわよ