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ゴジラの記憶 #10「ゴジラ・ミニラ・ガバラオール怪獣総進撃」

約1年ぶりの「ゴジラの記憶」である。本当は、第1作目から順番にゴジラ映画を観て、その感想を書こうと思って始めたものだけど、昭和ゴジラシリーズはこのあたりからきつくなる。いつ書こうかいつ上げようかと思っているうちに1年近く経ってしまった。この映画と、「ゴジラ対メガロ」をどう乗り切るかが勝負の分かれ目である(何の勝負かしらんけど)。

この映画、ご存じの方も多いとは思うが、ゴジラもミニラもガバラも、怪獣が出てくるのは全て主人公である少年の夢の中のお話である。映画の本筋は何か「ホーム・アローン」みたいな話で、それに近所の悪ガキによるイジメだとか、鍵っ子や公害など、当時の社会問題が絡んでくる。だから、これを「怪獣映画」と言っていいのかどうかわからないけど、第1回東宝チャンピオン祭りのメインの作品だしゴジラシリーズの一つであることには間違いない。そう言えば去年放送されたアニメ・ゴジラシンギュラポイントにガバラみたいな怪獣が出ていたような気がするんだけど、どうもあれは「新怪獣」ということだったらしい。

この映画、リアルタイムでは観ておらず大人になって「一応、ゴジラシリーズだしぃ」という事で観たのだが、大人の視点から観ると、むしろ怪獣がでてこない本筋部分のほうが気に行ってしまった。あの赤茶けたような工業地帯(川崎市あたりだろうか)と、地面をのたくる線路は、そのまま私が子供の頃見ていた風景である。いわば原風景が映画の画面に閉じ込められているようなものでこれは泣ける。その中で、主人公の一郎少年をはじめとする「インダストリアル・チルドレン」が遊んだり、喧嘩したりしているわけなのである。

周りの大人たちも、この頃の特撮映画によく登場する、どこか浮世離れしたような人は居なくて、皆、地に足が付いた生活者である。佐原健二が少年のお父さんで、職業はセスナ機のパイロット・・じゃなくて貨物列車の運転手だ。やや男前すぎるきらいはあるが、ちゃんと昼間のパパしている。でも、特筆すべきは隣人を演じる天本英世だろう。死神博士が隣に住んでいると思うとちょっと落ち着かないが、この映画の天本さんはとことんいい人なのである。

仕事で留守がちな両親に代わって少年の面倒を見てくれる。ご飯を作ったり、泊めてやったり。それだけではなく部屋のそこかしこにある彼の発明品(何か知らんけど「おもちゃ発明家」みたいな仕事なのだ)が、一郎少年の想像の翼を広げ、怪獣島に連れて行ってくれた。よく「悪役をする俳優が善人をすると、トコトンいい人になる」と言うが、まさにそれを証明している。

ただ、仕方ないことであるが、この映画の子供たちは大人の眼から見た子供なのであってリアルな子供ではない。当時は「腕白でもいい、たくましく育ってほしい」というCMの言葉が流行っていて、この映画の子供像もそうした価値観に貫かれている。だから、今から見たら、いや現実なら当時でも「いくら腕白っちゅうても、そんなことしたらアカン」というようなことを主人公が、しかも肯定的な文脈でやらかしているのだが、それも含めて、当時の時代背景がよく分かる。こういう作品こそ、時代を物語るものとして、アーカイブにとって保存しておくべきだろう。


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