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がんかも!?2

 酷い便秘になって以来、3つ目の病院を受診することにした。ワイパーの速度をマックスにしても視界が危ういほど、激しい雨が降っていて、心も折れそうだった。でも、胃腸内科で問題ないと言われ、内科で卵巣が腫れていると言われ、とにかくとにかく、急いで婦人科にいかなければ、と思った。

 いま受診したばかりの総合病院から、車で10分ほどの婦人科に向かっていた。新しくできた総合病院の婦人科。『ここなら、個人のお産中心の病院より、私みたいな50歳の患者も多いかな。』そう思い、選んだ。選ぶ基準なんて知らなかったし、ただなんとなく、お腹の大きな若い妊婦さんばかりだと、切ない気がして、総合病院を選べば、私ぐらいの年代も紛れているんじゃないかな、と考えた。

 駐車場から病院の入り口に行くまでの間に、ずぶぬれになりそうだったが、小降りになるのを待てなかった。ダッシュで病院内に入ると、
『まだやってる?診察時間終わった?』と思うほど、誰もいなかった。コロナで緊急事態宣言が出された直後は、こうしてどこに行ってもガラガラだった。

 白い内装の中、受付を済ませ産婦人科のフロアに向かうと、そこは椅子もドアもうすいピンク色だった。
『いまの心境に合わないな』とふと思った。

 私ひとり、ぽつんと待った。私以外、だぁれもいなかった。看護師さんもいなかった。そして、誰もいないのに、なかなかよばれなかった。気が焦って、時間がながく感じていただけかもしれないが、全然よばれなかった。

 話すことを脳内で高速でまとめながら、しばらく待っていると、後ろからぱたぱたと看護師さんが走ってきて、声をかけてくれた。人がいるだけで、少し安心した。ほどなく、診察室から呼ばれた。今度は中年の医師だった。

 ひととおり話すとすぐに、内診しましょうと言われ、隣の部屋へと移動した。さすがに50歳にもなると、何度も経験してきてはいるが、やっぱり婦人科の内診台にのるのは苦手だ。でも、そんなこといってられない。目をつむってやりすごした。

 私の他に患者がいないので、着替えるとすぐに診察室にくるように言われ、慌てて下着をつけて戻った。

「内視鏡でみても、やっぱり卵巣はれてるねぇ」

医師はそう言ったあと

「でも、ここの病院じゃ診られないなぁ」

と、続けた。

 どこか冷たい感じがするその医師は、更年期の治療などは受け付けているが、がんの治療はしていないこと、医師不足で隔週の診察であることなどを説明すると、

「どこか痛いところある?」と聞いてきた。

 私が、しくしくと痛む場所を伝えると

「そこ、卵巣より上だし、ころげまわるほど痛いわけじゃないし、いま会話できてるんだから、全然緊急じゃないよ。」と返された。

 『藁をもつかむ思いで駆け込んだ病院なのに、つきはなされた気分だなぁ。とりあえず、1週間待てば、さっきの総合病院の婦人科の診察がある。待つしかないか。』会計を待ちながら、そう考えていた。

 濡れた身体も、心も、冷え冷えとしているところに、娘からのLINE通知。私は、お風呂を沸かしておいてほしいと頼んだ。まだお湯につかっていないのに、そのやりとりだけでも、少しだけ温まった気がした。

 急いで帰り、玄関からお風呂場に直行。ゆっくりあたたまってから2階のリビングに上がると、娘がお鍋を作ってくれていた。春なのに冬みたいに寒い日で、おまけにずぶぬれになったあとだったから、心底ほっとした。

 お鍋をたべながら、姉にLINEをした。検査の結果より先に、おなべの報告が先だった。そのぐらい、あったかいお鍋がありがたかった。



 


 

 

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