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春は岩塩|自分なりの枕草子

春は岩塩。
ぬるんだ土を割って次々と萌え出る青い植物を、かたはしから刻んで粉をまぶし油の中へと滑らせる。引き上げられてなおチリチリと音のする揚げ衣から、ふきのとうの幼気な早緑が透けたところに、きらきらと降る塩の結晶のうつくしいこと。
さっくりとした薄衣の歯ごたえ、立ちのぼる香気と絡み合う塩気を追いかけて、すがすがしく鮮烈な苦みが滲む。

夏はスパイス。
痛いくらいに肌を刺す日差しに負けじと、唐辛子が身体のなかを赤く灼く。ジャワカレーはいうまでもなく、タイに中華にテックスメックス、スパイスが織りなす香りの洪水に溺れるときは今。
こんがり炒めた粗挽き肉にチリパウダーを効かせ、みずみずしいトマトや葉野菜とともにトルティーヤでくるんでがぶりとやるときの、季節を征服したかのごとき昂揚感よ。

秋はバター。
さわやかな風が金木犀の香りを運んでくる朝、オーブンの中でじりじり焼いたりんごのキャラメル色の肌の上で、思い切りよく乗せたバターの塊がみるみる融けて、黄金色の小さな川を作り出す。
わずかにとけ残ったバターのかけらはひやりと唇に触れた一瞬のちに淡雪のごとく消え去り、乳脂肪の芳醇なコクが薄く膜を張った舌の上で、果実の甘みはいっそう濃く、いっそう深くなってゆく。

冬は味ぽん。
つめたい水から身を守ろうと栄養を蓄えた、海の生きものの命がいっそうおいしくなる季節。
ぷっくりふとった真牡蠣の薄く青みがかった白、とろりと滑らかな白子の輝くような白、しっとりときめ細かい鱈の身のやわらかで静謐な白を、煮え立つ鍋から引き上げては、無遠慮に茶色くよごして喰べる。淡い色の冬野菜も角の立った豆腐も、すべて同じ色に染めては口へ運び、膨らんだ腹をうっとりとさすりながら、かすかに私の業を思う。




素敵すぎる発想の三毛田さんの記事にいてもたってもいられず、「調味料(?)と色彩」をテーマにひとつ乗らせていただきました!三毛田さん、楽しいきっかけをありがとうございます。

他の方の枕草子もたくさん投稿されていて楽しいです。もっともっと読みたい。

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