エスカレーター・マナー
今日、クラスメイトであるダンス部の男と成り行きで一緒に帰ることになった。帰りの電車で会話した分には、私が一般的なダンス部の人に抱いている悪いイメージとは裏腹の、誠実で爽やかな人柄を感じることができた。…乗り換えの駅での一件までは。
私が通う学校の多くの生徒は、乗り換えの駅としてこの駅を使う。今日は午前中だけの授業だったので駅についたのもまだ12時台だったが、昼間でもかなりの利用者がいると感じるぐらいには大きい駅だ。事件は駅構内の下りのエスカレーターで起こった。
クラスメイトに先行して私がエスカレーターの左側にできた列に立ったのだが、そのクラスメイトはエスカレーターの中央にその両足を揃えて立っていた。エスカレーターの右側を歩いて降りていく人達が彼を押しのけるようにして迷惑そうに通っていく。気づいていないのかな、いやまさかなと思いつつ、彼の二つ下の段に立つ私は彼の肩を掴んで左側に寄せようとしたのだが、一歩どころかピクリとも動かない。動く代わりに彼は「エスカレーターは”中央にお立ちになってベルトを掴んで下さい”って言ってるだろ?」と半笑いで返したのだ。これにはなんと言っていいかわからなくなったけれど、嫌だなと思ったのは確かだ。あまり彼との関係値ができていないため強くは言えなかったが、あんまり良くないよみたいに少し苦言を呈すると、彼はエスカレーターを降りてから、細かい振動とかが気になるADHDみたいな人とかのことを云々とよくわからない理論を述べていたが、その間も彼の声は半笑いの声だった。私は「そういうことじゃないんだけどな…」という捨て台詞しか返せなかった。乗り換えの路線の都合で彼とはそこで別れた。
私はなんと言えばよかったのだろうか。ルールを遵守するのであれば彼の行動は間違っていないのかもしれない。しかしあれだけ人が通っていて混雑していたところでの彼の行動はあまりにも周りが見えていなさすぎる。いや、彼はエスカレーターを歩く人が迷惑に思っていることを分かっていてあの行動をとった。周りが見えていなかったわけでも無い。それにADHDがどうとかいうあの取ってつけたような理由もまったくもって意味がわからない。ADHDとされる人たちにも失礼だと思った。私の善性を主張したいということではないが、私の目には彼の一連の言動は不道徳なように映った。
マナーやモラルといったものを人に説くのは難しい。そもそもの話それらを人に強制すべきなのだろうか。私はあの場でどんな選択を取ることができただろうか。あの場において中央に立つというルールは誰の為にもならなかったように思える。誰のためでもないルールと周りに迷惑をかけないためのマナー。ルールはマナーよりやや優位にあるものかもしれないが、あのエスカレーターにおいてはそれは逆転していた。