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東京の空

 地下鉄に乗ろうと、東京駅の八重洲口から永代通りのロータリーに出て、ハッとした。記憶の中にあるビルの壁がそこにはなく、ぽっかりと空いた広い広い空間に、薄暮の空がただ広がっていた。
 何年も前に、新宿伊勢丹の向かいのビルが建て替えで取り壊された時も、東京にも空があったのだと、小説の一節を思い出したものだが、ここの空はその何倍も広かった。
 詳しいことは忘れてしまったが、確かアジアで最も高いビルが建つのだったか。人口は減少し、東京一極集中の弊害が論じられて久しいが、丸の内から大手町、八重洲、日本橋にかけての再開発で、東京の空は、ほんの少しの間、顔を見せたかと思うと、それまでよりずっと高いビルができて姿を隠してしまう。
 この大きな大きな空も、いつまで見られるものだろう。そう思うと、しばし立ち止まって眺めていたい。そんな気持ちにさせられた、月のきれいな二月の夕暮れであった。 

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