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変な人 (39)近所のスーパー、買い物カゴが大嫌いな男。

 その男は両手いっぱいにモノを抱え込んで、レジに並んでいた。

 それは自宅のすぐ近くにあるスーパーでの出来事。
 ちょこっと買い物でもしてから帰ろうかな、なんてスーパーに入ったとき、正面にあるレジの行列にその過積載の男は並んでいた。
 とっさに私の「変な人」感知器が作動したため、そのお知らせに従って、入り口わきに並ぶ野菜などを物色するふりをしながら、男の観察を続けた。

 男が手に抱えているものは、見えているだけでも、
 ビール6本パック
 ジャガイモの袋
 にんじん1本(備え付けのビニールに入れた状態)
 カレー粉(たぶん「こくまろ」)
 かっぱえびせん
 市指定の「燃やせる」ゴミ袋
というものだった。
 四角いもの、袋のもの、小さいもの、長いものが入り交じり、それをビールのパックを土台のようにして身体の前で無理やり抱え込んでいる。
 今にも何かがその腕からこぼれ落ちそうである。
 なぜアナタはカゴを使わない?
 なぜそんなにまでして素手で持つ?

カゴ、使いなさいよ。

 そのラインナップを見るに、男はカレーを作るための足りない食材の購入に来たのであろう。
 ジャガイモ、にんじん、カレー粉。
 これをパッと手に取り、レジをパッと済ませて帰る。
 そんな計画だったのではないか。
 しかし、その3点を持ってレジに向かう途中のことだ。
 レジの手前に展開する酒類売り場を通りかかったときに気づいた。
 そうだ、ビールだ、6本だ、と。
 さらに酒のつまみに「かっぱえびせん」。これは欠かせない。
 最後にレジ横の棚にある市の指定ゴミ袋を見て、嫁に頼まれていたのを思い出し……なんてところなんだろうな~。

 やっとレジで男の順番が来た。
 男は前に身を屈めるようにして、品物をガコガコと音を立ててレジのカウンターに置く。
 はみ出さないように、まるで大きな砂山が崩れないようにするかのように、周りから手を当てている。

 レジでは並べられた商品を店員が用意したカゴに入れながらバーコードを読み取る。
 支払いを済ませ、男はカゴを持ってレジ袋に戦利品を移し入れるためのサッカー台に向かった。
 ……のだが。先ほどの手持ちで男はすっかり自信を深めたのかもしれない。
 驚いたことに男はレジ袋を購入せず、先ほどと同じく手持ちで品々を車に運ぶ、という行為に出た。

 その直後、あまりにも出来過ぎのオチが待っているのだが、本当に起こったことなので、ご報告させていただく。

 店の前に止めた車へと向かう5メートルほどの間に、ビール6本パックの紙が破れたのか、ビール缶が駐車場にぶちまけられ、同時に荷物の土台を失ったニンジン、ジャガイモ、かっぱえびせんなどもアスファルトの上にぶちまけられる。
 そして、「あ~~~」という男の悲しい絶叫が、店内にまで聞こえてくるのであった。


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