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変な人 (22)住宅街の孤独な駅伝男

 その男はたった一人で走っていた。

 散歩で偶然通りかかった住宅街の中の一本道。
 正面からこちらに向かって、その男が走ってきた。
 スピードは軽いジョギング程度。走る姿勢はやたらと正しく、背筋が伸び、腕は身体の脇で律儀に振られていた。
 皆で一列になって早足に舞台に登場するときの劇団員のような、正しい姿勢だ。
 別にどんな姿勢で走ろうと、それは本人の自由である。
 ただ、その服装から私は目を離すことができなかった。
 その男は、姿勢ばかりでなく、正しく「駅伝出場中」の恰好をしていたのだ。
 頭にハチマキ、肩から斜めにタスキ掛け。
 まさにあの、箱根駅伝などで目にする選手の恰好であった。
 なぜ?
 もちろん、今ここで駅伝が行われているわけではない。
 なぜここで、ここまで正式な駅伝スタイルに身を固めなければならないのか。
 確かに、高校の部活などを見ると、テニス部はテニスウェアで走っているし、野球部もユニフォームで走っている。
 でも駅伝の練習で、これはかなりおかしい。たった一人だし。
 彼はどんな意図で、こんな正式な格好をしていたのか。

・本番の恰好をしないと気持ちが盛り上がらないから
・タスキやハチマキが走る邪魔にならないか事前に確認中
・本番だと思って真剣に練習しろ、というコーチの言葉を勘違いした
・何かの撮影
・単なる変な人

 可能性はいろいろとあるが、好感度という面では、かなりポイントは高い。
 この人はたとえ変な人であろうとも、間違いなく良い人であるような気がする。
 がんばれ孤独な駅伝男。健闘を祈る。


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