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変な人 (24)地元商店街、走り去るシャンプーハット男

 目を凝らさないと、その構造は理解できなかった。

 それはお昼も近い、夏のまだまだ暑い晴れた日。私は地元の商店街を歩いていた。
 後ろからゆっくりと走る自転車の走行音が聞こえた。
 間もなく男が、ややガニ股で自転車をこぎ、私を追い抜いていく。
 その後姿が、ぼんやりと目に入った。
 その瞬間、私の「変な人」センサーが鳴った。
 なんだ、この違和感は? え? なにかがオカシイ!
 改めて自転車で走り去ろうとする男の後ろ姿を観察する。
 違和感は男の頭、その帽子にあった。
 男が被っていたのは、ぐるっと360度ひさしのついた、よくアウトドアなどで皆さんが被っているもの。
 こんなスタイルの明るい帽子だった。

おじさんの必須アイテム、バケットハット。

 しかし、その帽子は、この手のものにしては珍しく2色のデザインになっている。
 ひさしから上に伸びる山の部分、頭をすっぽりと覆うところ(専門用語では「クラウン」と呼ぶらしい)が黒い。
 しかもその黒い部分は、細かく風になびいている。
 その正体は髪の毛であった。
「え? どういう構造?」とさらに目を凝らすと、それは帽子の上半分が消失し、髪の毛が見えているという状態。
 男は帽子(と言えるのだろうか)をシャンプーハットのように、ワッカのようにしてかぶっているのだった。

シャンプーハットというのだから、一応、ハットなのでしょう。

 その一瞬、いくつもの疑問が頭を巡った。
「男はなぜ、何の目的で、そんな帽子をかぶっているのか?」
「どうやってその帽子を入手(製作)したのだろうか?」
 しかし、すでに走り去ってしまった男から、回答を得ることはできない。
……走り去っていなくても、質問する勇気はないけれど。。。
 頭に浮かんだ疑問への回答は、想像でしかない。

 きっと男は、まぶしい日差しを避けたかったのだろう。
 しかし普通の帽子では熱がこもって暑いし、汗をかく。
 そうだ! 頭頂部を開ければ空冷で涼しいし、まぶしくない。
 なんて合理的。まさに完璧!
 おお! 俺ってすごい! 何という名案! なぜ誰も気づかない!
 気づかないから売ってないし。
 それじゃ、自分で作るしかない。

 こんな男の思いから、この帽子が生まれたのかもしれない。
 そして「どうだよ、すごいだろ!」と自慢する夫(父)に、ただ悲しく頭を垂れるしかない妻と娘。
 帽子は、どんなに長くかぶり続けていても、頭の部分が抜けてしまうということは起こらない。
 つまり、シャンプーハット仕様の帽子は「ハサミ等でくり抜く」という製造方法がとられたということなのだろう。
 確かにこの帽子(なのかな)で自転車に乗っていれば、頭頂部に風は当たる。
 しかし、照り付ける直射日光は暑くないのか、シャンプーハット男よ!
 その発想と実行力は素晴らしいぞ!
 がんばれ、シャンプーハット! がんばれ家族!


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