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代官山蔦屋からはじめる試論


どきどきしてしまって、思わず目を背ける
だめだ、これ以上見ていられない

と思って目をそらした先に
またどきどきしてしまって

思わずその場を離れようと歩き出す

ここなら大丈夫かなと思った場所で
「え、これって......」

全然知らない人だったけど
これはわたしの真ん中の部分と共鳴している

人はこんなとき、涙が出そうになるんですね

こんなにどきどきしていそがしいのに
今、きちんと息ができてるな、と思う


わたしをめいいっぱい褒めたい日
コーヒーを飲んでもバスに乗っても涙が出る日
あんまり覚えてないようなふつうの日

どんな日でもここに行けば
わたしを大切にできる

見たことないような紅茶、かばん、お皿
コーヒーの香り
シーリングスタンプと硝子ペン
それと、壁いっぱいに拡がる本

なくても死なないんだけど
あると生きられる

気づいたら口角があがってしまって
わたしより口角があがっちゃってる人を見て
真ん中があったかくなる

壁ぎわでガラスにもたれかかりながら
書に目を落とす人たちをみて
この人たちとなら仲よくなれそう、と
よりどころのない信頼感

たぶんみんな
本についてる紐の栞に見とれたり
裏表紙の紙の色にわくわくしたり
そんな人だと思う

ああ、仲よくやれそうだ、よろしく


あいかわらずどきどきが治まらなくて
わたしも壁ぎわの椅子にすわってみる

わたしのなかのぐちゃぐちゃが溶けだして
この場所の空気が染みこんできて
おなじ温度に、おなじ濃度に、おなじ色に
浸透圧、みたいな


なんとなくまどろんでしまって
また歩き始める

どきどきが減った
わたしがこの場所になじんだ証拠

この場所のすべてを味わいつくすには
わたしの人生が短すぎる

その感覚から来るあきらめがあるから
観念して
わたしは自分のすべてを捧げようと決める

あなたを知りたい、と笑える

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