「死にたくなったら電話して」

 今回は、「イノセントデイズのような後味が悪い話大好き!」な僕が、蔦屋書店のフェア「コンシェルジュ文庫」に並んでいるのを見て、気になって気になって結局購入してしまった1冊です。

 1冊の本を1日で読み切ったのっていつぶりだろう・・・

 主人公たちが感情を吐き出す場面、世の中や人間への批判等、よくここまで憎悪を持った人間を描けるなと思いながらも先が気になり、一気に読んでしまいました。

「死にたくなったら電話して」

 大学合格を目指して3浪中。順風満帆とはいいがたい人生を送っている徳山が、バイトの同僚と行ったキャバクラでキャバ嬢の初美と出合う。関わっていくうちに初美の策略によってかよらずか、「この世は、そんなしんどい想いをしてまで生きてやる価値はそれほどないんじゃないか」と初美の思想に同調していく徳山は、自分の周囲にいる人間の悪い部分ばかりが目に入るようになり、その人達にしてもらった良いことは頭から消え去り、最後には憎悪の感情をぶちまけて関係を断ち切ってしまう。どんどん外界との関わりを断ち、破滅への道を突き進んでいく物語。


 重くて暗くて、でも世の中で実際に起きていそうな話。この本の感想って何なのだろうと考えたときに浮かんだのは、「自分の気持ち次第で周囲の人の印象は大きく変わるのだな」ということです。

 主人公が関係を断ち切っていく人たちは、悪い部分が浮き彫りになるような書き方をされています。
・会社をリストラされてバイトを始めたおじさんにきつく当たり、キャバクラでは女の子たちにデレデレするバイト先の先輩である日浦
・その日浦にゴマをすり、徳山のことをなめている斉藤
・直接自分を馬鹿にしてくるわけではないが、その二人と行動を共にしている内場
・主人公が通っていた予備校の先輩で、美人の初美と付き合っている主人公に嫉妬する菅野
・優秀なわけではないが仕事に情熱を持っていて、他人にもそんな人生観を押し付けようとして来る形岡、、、

 文字にすると、どこにでもいるような人たちではないでしょうか。むしろどの特徴も、その人のいい部分で補えるような大したことのない欠点なのでは?

 ですが主人公は初美以外の人間の言葉が耳に入らなくなっており、周囲の人間が自分に害を与えているとしか思えなくなってしまうのです。

 自分にもかつてそういう時期がありました。
 去年の夏、就職して一年目で、自分が思っていたように働くことができず、理想の社会人像と実際の自分のギャップに焦るのですが、その差を埋めることができずにいた時です。周りの人が全員能天気に見えて、笑っておしゃべりしているのが気に食わなくて、全てを悪いように受け取って、今の自分が苦しいのはすべて周りの人間のせい、環境のせいで、ここは自分がいるべき場所じゃないと思ってしまう。

 そういう時期は本当に苦しくて、自分ができない人間であることを認めたくなくて、どうしたらいいのかもわからずに過ごす日々でした。
 運よく自分の周りには、初美のように下へ下へ引っ張っていく人はいなかったので、今では元気に働いていますが、「自分とは別世界のお話しだ」とはとても思えない物語でした。

 いまでもたまに気持ちが落ちかけるときがあるのですが、数日で持ち直せるようになり、周囲の人よりも自分の至らなさに目が向くようになってきた自分、去年よりも前向きになっている自分をこの本をきっかけに認めてあげたいなと思えました。
 この先も、周囲の人への感謝を忘れず過ごしていけたらいいなあ。

この記事が参加している募集

#読書感想文

189,460件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?