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嵐のち晴れ

昼になると予報どおり
昨晩から吹き荒れた雨がぱたっと止んだ。
強風は吹き続けていて
まともに歩くことはできないけれども
海岸の景色は一瞬で明転して
まぶしく輝きはじめた。

外に出てみると
観光客が風にもめげずに海沿いの道を往来していた。
海はというと
まだ波乗りができるという状況では当然ない。

夜には風の音はおさまって
代わりに波が割れる音が轟いていた。
僕は月に照らされる波を眺めながら家へ帰った。

翌日は土曜日だった。
テレビのニュースが桜の開花時期をしきりに話していた。
「今日の最高気温は22度の予報です。海上は波が高いでしょう。」
車に乗って妻と近所のスーパーに買い物に出かけた。
天気予報が言うとおり外は暑く
街往く人はみんな浮足立っているように見えた。
買い物が終わったあと
僕は駅の近くで車から降ろしてもらい
駐輪場からひっぱりだした自転車にまたがって
海岸を目指した。
自転車で走り出した瞬間
体も気持ちも軽くなる。
海岸沿いの国道を渡ったあとに
セーターを脱いだ。
海沿いに走る。
潮の匂いがする。
深く息を吸って、吐いて、また吸って、
顔を少し上に向けて
海風と太陽を全身で感じる。

左手に海を
右手に渋滞で動かない車の列を
横目に
自転車の僕は飛ぶように往く。

波はずいぶん落ち着いてきたけれども
楽しめるだけのサイズは充分に残っていた。

オフィスに着く。
床に鞄を置いて
ウェットスーツを着て
サーフボードにワックスを塗って
外に出る。
路地をぬけ
国道の車のあいまを渡って
ビーチへ降りる。
暖かい砂。
飛び込むように輝く海へ入っていく。

あがってくるだろうと思っていた海風は
むしろなくなっていって
人がすくいピークを見つけた僕は
休むことなく波に乗り続け
心は幸せで満たされ
溢れ

歓声をあげた。




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