見出し画像

望遠レンズを手放した理由。すれ違っていた父娘の想い。

気付けなかった娘のキモチ。

去年、幼稚園の年少さんになった娘にとって初めての運動会。
娘のがんばる姿を写真に残したい!張り切った僕は新調した望遠レンズ(めっちゃズームできるやつ)をかつぎ娘の勇姿を撮りにいくのですが...。

なんとかカッコ良く写真を残したい父と、頑張る姿を見てほしい娘。
小さなすれ違いで後悔することになった僕にとっても初めての運動会。

子どもの気持ちをくみ取るって実はすごく難しいこと。
本当に大切なことは何なのかを当時4歳だった娘に教えてもらった。今回はそんなお話です。

撮ることが目的となってしまっていた去年の僕。

「ついに明日は運動会。頑張ってね。パパもちゃんと観に行くからね!」
運動会前夜、そんなやりとりをしていたのを覚えている。娘はお気に入りのミッキーのぬいぐるみを抱っこして早めに眠りについた。

「いい写真を撮ってやる!」

震えながら[購入する]ボタンを押し、ようやく届いた望遠レンズに想いを込める。ピカピカに輝くレンズを丁寧にタオルに包みカバンにしまった。

娘の勇姿を写真に収めるべく、僕は燃えていた。

カメラが趣味な僕としては認めてもらう大チャンス。ここは頑張りドコロである。そしてきっと娘も喜ぶに違いない。
そう思っていた。
.
運動会当日。会場では我が子の勇姿をひと目見ようと、多くの保護者が集まっていた。高そうなビデオカメラ、バズーカみたいなレンズ。みんな本気だ。ふふふ、しかし今日の僕は負けてない。

駆け足で場所を取り、少し遠いけどベストなポジションをゲット。遠くても大丈夫。僕にはコイツがついている。カバンの隙間から覗くピカピカのレンズにひそかに心を躍らせていた。

晴天に恵まれた運動会は10月とは思えないほどの暑さ。
元気で微笑ましい選手宣誓を聞きながら上着を腰に巻きカメラの準備を進める。

他の学年の競技が終わり、いよいよ徒競走。

娘の出番が近づく。ドキドキしてきた。人生初の徒競走。きっと僕よりもドキドキしているだろう。

「メロン組、やすだ○○ちゃん〜。」

「はいっっっっ!!!!!」

不安と緊張を吹き飛ばすかのような大きな返事。
そっとシャッターボタンに指を添える。

「位置について〜よ〜い...ドン!!!」

大きく腕を振り懸命に走る娘。必死に撮る僕。
自慢の望遠ズームでマシンガンのように連写。
年少さんの徒競走はたった20mほどのレース。一瞬で駆け抜けた。

娘は雄叫びと共にゴールテープを切った。
一着だったようだ。
走り終わった表情も撮っておきたかったのでそのままカメラを向け続ける。
「ねえ、観てた?わたし頑張ったよ!」娘はそんな表情で観客席を見渡している。
そんな娘とカメラ越しに目があった。

(あ..れ...??)

目が合った瞬間、晴れやかだった顔が寂しそうな表情に変わった。笑ってない。
シャッターを押す指が反射的に離れた。

娘の目線の先にはカメラを覗く僕。そしてビデオを構えた妻。

娘はただ見てほしかったんでしょう。初めての徒競走を応援してほしかった。一番になった姿を見てほしかった。
しかし、僕も妻も“撮ること”に夢中で全く見ていなかった。寂しい表情はそのせい。

終始撮りまくったおかげで結果的にスポーツ紙の一面のような躍動感ある写真が撮れた。

しかし終始ファインダーを覗いていたので順位も分からない。手も振ってあげられなかった。

なにより僕は娘の走る姿を覚えていない。

カメラに残るのはただの「躍動感のある娘の写真」。体操服を着て走っているだけの写真。

なんだか胸が苦しかったのです。そして悔しかった。
娘の頑張りを褒めてあげたいのだけれど、撮るのに夢中で全く見ていない。
「がんばったね!」「早かったよ!」
あとからいろんな言葉をかけてみたけれど、きっと伝わっていない。
娘と僕にとっての初めての運動会は
ちょっぴり苦い思い出となったのでした。

望遠レンズを手放した。必要なのはレンズじゃなかった。

「ちゃんと見に行くからね。」
運動会前夜の会話を思い出した。僕は娘に嘘をついてしまっていた。
(レンズ、売っちゃおうかな。)
いや、すごく良いレンズだしいい写真が撮れる。手放す意味もないのだけれど、持っていたらきっとまた夢中になって撮ってしまう。僕にとっての写真は、娘の笑顔を残すもの。悲しい思いをさせるなら、そんなモノ手放してしまおう。
そんな理由で望遠レンズとさよならした。ゴメンよ。うちじゃなかったみたいだ。
.
子どもの笑顔を引き出して、それを撮って記録するのはカメラ好きの僕の役割であり生きがいです。
運動会でも素敵な写真を残したい。でも笑顔が曇っちゃうならそれは違う。僕じゃなくてカメラマンさんに撮ってもらおう。
運動会でも発表会でも、しっかりこの目でみて、最後に手を振ってあげたい。子どもの頑張りにしっかりと応えてあげたいのです。
写真撮るのは誰かにお願いできるけど、彼女にとっての父親は僕しかいないのだ。

一年後、今年の運動会は記憶に残った。

コロナ渦で開催された2020年の運動会。
学年ごとに行われ、入れるのは保護者のみの小規模での開催となった。
去年よりもグッと冷え込んだ秋空の下、元気な声が会場に響き渡る。
チラチラこっちを意識しながら、娘が入場してきた。
よく見るとこぶしがギュッと握られている。俄然やる気だ。

「位置について〜よ〜い...」

去年よりひと回り大きくなった娘が、癖のあるポージングで構えた。右手と右足が一緒に前に出ている。

「ドンっ!!!」

力強く地面を蹴り、腕をめいっぱい振って走る。ウサインボルトを彷彿とさせるいい走りだ。
僕はしっかりと目に焼き付けた。となりで妻も手を振って応援している。

ゴール際、手元に用意しておいたコンパクトカメラでそっと一枚写真を撮った。娘からは決して目を逸らさずに。写れ!と願い、勘で撮った。
ちょっとブレてるし、よくみるとピントも合ってない。写真としての仕上がりはイマイチなのかもしれない。

しかし、子どものがんばる姿をしっかりと見届けることができた。今年は娘を目一杯褒めてあげよう。

張り切る娘の一等賞を記録したこの一枚は
記憶にもしっかりと残る、僕にとっての宝物。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?