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読書メモ

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読書記録のまとめ。
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#評論

読書記録「漂流日本左翼史 理想なき左派の混迷1972-2022」池上彰・佐藤優著

講談社現代新書 2022 新左翼で終わったイメージのある それだけではない部分が取り上げられていて興味深かった。 その労働運動も徐々に大衆の支持を失っていくことになる。 そこにはもちろんソ連崩壊という背景もある。社会党に関しては一部をパージしていった結果ともいえる。 一方でマルクス主義以外で人気を集めたとして少し紹介されていた吉本隆明の説明。さすがにわかりやすかった。 現在の左翼の状況はまさにタイトルにある通り「理想なき左翼」。 人は大きな物語、理想に惹かれてついてゆ

読者記録「戦争と天皇と三島由紀夫」保坂正康・半藤一利・松本健一・原武史・冨森叡児著

朝日文庫 2005 保阪氏と、相手を変えて4人との対談がおさめられた一冊。終戦から65年である2005年の本。 以下、目次。 半藤一利×保阪正康「昭和の戦争と天皇」 松本健一×保阪正康「二・二六事件と三島由紀夫」 原武史×保阪正康「昭和天皇と宮中祭祀」 冨森叡児×保阪正康「戦後日本を動かした政治家たち」 最初の半藤一利氏との対談で面白いと思ったのが昭和天皇が軍の統領としての大元帥としての天皇と、立憲君主としての天皇という2つの役割を認識し、はっきりと使い分けていたという

読書記録「日本文化における時間と空間」加藤周一著

岩波書店 2007 日本文学史序説で得た日本文化の特徴を時間と空間の捉え方から考えた一作といえる。 ”いま”に生き、全体より部分に重きをおく日本人。 “いま”に生きる日本人というのは直感的に分かる気がする。とにかく”いま”。何か起こってから考える。 新型コロナウイルスへの対応だってそうだ。次の流行が起こることは分かっているのに、起きてしまってから考える。何度それを繰り返すのだろう。 “いま”を生きるとはどういうことか。 まず、4つの時間の捉え方が参照枠組として挙げられる

読書記録「日本人と日本文化」司馬遼太郎、ドナルド・キーン著

中公新書 1972 奈良、京都、大阪で3回にわたって行われた会談。 ドナルド・キーン氏が理解できないといった足利義政。 隣で応仁の乱で人々が殺し合っている中、しかもいちばん激しい戦闘が目の前で見える花の御所にいながら、平気で恋愛をし、宴会を楽しむ。そして花の御所を立て直したりしながら一般民衆の救済にはわずかな金しか使わない。 そんな政治家としてはいわばろくでなしの足利義政を東山文化の代表としてその政治的モラルをとやかくいわない日本人。将軍にそれほど政治家であることを期待し

読書記録「ユダヤ人」J・P・サルトル著

安藤信也訳 岩波新書 1956 書かれたのは1944年頃。パリの解放があり、他の人々と同様にユダヤ人たちも少しずつ戻り始めていた頃。もちろんイスラエルという国が成立する前の時代。 サルトルの皮肉のこもった逆説的な言い回しが十二分に楽しめた。 例えば、ブルゴーニュ人全部が医者になったとしても人々はむしろ多くの医者を送り出してくれて感謝するくらいなのに、なぜユダヤ人ではだめなのかと問いかける。 そして、冒頭で反ユダヤ主義に対してはっきりと以下のように述べる。 前半は反ユダ

読書記録「真説 日本左翼史 学生運動と過激派 1960-1972」池上彰・佐藤優著

講談社現代新書 2021 前巻から続いて、新左翼の時代。 講座派と労農派と、社会党と共産党の関係。そしてそれぞれの党が革命に対してどんな態度を取り、どういう方針をとってきたのかを追ってきたことで、新左翼というものが出てきた過程がとてもよく分かる。 覚えきれないほどの新左翼があるが、みな既存政党の方針に違和感を覚え、新たな方法で革命を成し遂げるようとしていた。 これを読んでいけば各派の思想の違いも少し分かる。 そして佐藤氏はその核心部分に、左翼の理性で世の中を組み立てられる

読書記録「真説 日本左翼史 戦後左派の源流 1945-1960」池上彰・佐藤優著

講談社現代新書 2021 日本の左翼運動の振り返りの本が少ないなとずっと思っていた。 人新世の資本論やチボー家の人々でインターナショナルや左翼史について知りたいところでもあった。 佐藤優は日本社会党の青年組織、日本社会主義青年同盟(社青同)の同盟員であった経験がある。そのため、共産党に厳しいように感じるところはあったけれど、内部を知るからこその話もあった。 先の見えない時代の中で、人々が左翼的な思想に再び目覚め、左翼思想が台頭する可能性が高いという著者。 この本の目的は

読書記録「甦るロシア帝国」佐藤優著

文春文庫 2012 プーチンを生み出したロシアとは一体どんな国なのか、知る手がかりとして手に取った一冊。 著者の備忘録のような一冊だった。出来るだけ会話をそのまま記録してある。読者として読んだ時には省いてほしい部分も。「どういうことだ、わからないから説明してくれ」など。会話部分がいかにも翻訳っぽいせいもあるかもしれない。 そこに背景事情説明と神学論などが挟まって時間軸も前後する。難解な上に整理がされていないので読み下すのが難しい。 料理やレストラン事情はそれはそれで面白いけ

読書記録「人新世の「資本論」」斎藤孝平著

集英社新書 2021 最近やたらと耳にするSDGs。 Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略。国連が目標として掲げているが、著者はそもそも"持続可能な開発”という前提に疑問を投げかける。 経済成長のための”開発”をこの先も同様に続けるつもりなのかと。 そして、このような目標を掲げて、地球温暖化対策をやってる気になっていていいのだろうかと。グリーン・ウォッシュに取り込まれ、真の危機から目を逸らされているだけなのではないだろうかと。

読書記録「あいまいな日本の私」大江健三郎著

岩波新書 1995 いくつかの講演を新書にまとめたもの。 子供の頃の本との出会いや息子、大江光の話など重複しているところもある。それでも十分読み応えのある一冊。 本のタイトルの”あいまいな日本の私”は同じくノーベル文学賞を受賞した川端康成の受賞の際の演説、"美しい日本の私"に対する形でつけられたもの。 余談だが、道元や明恵の詩を持ち出して語る川端の演説の同時通訳者はすごい。 あいまいという言葉自体があいまいで、辞書をひくとvague,ambiguous, obscure

読書記録「加藤周一-20世紀を問う」海老坂武著

岩波新書 2013 高校生のときに、加藤周一の日本文学史序説を読んで感銘を受けた。 その時以来の思い入れの強さ故に、批判に重点が置かれて自分の主張ばかり述べる評論は読みたくない。 この評論は、加藤周一の主張を年代をおってみていき、論理矛盾の指摘や、雑種文化に至るまでどう考えがまとまっていったのか、そしてどこに関心の中心があったのかなど明らかにしていく。 指摘すべき点は指摘し、そしてその卓越した点についても著者からの視点でまとめる。全体のバランスが取れていて、最後まで面白く読

読書記録「廃仏毀釈」畑中章宏著

ちくま新書 2021 廃仏毀釈は民衆による暴挙という誇張されたイメージを個々のケースで検証しつつ、民衆の中にも仏像を守るものがいたことを明らかにしていく。 廃仏毀釈とは明治政府が突然、むりやり行ったものだというイメージを持っていたが、それが違っていたことに気付かされた。 江戸時代後期から既に、国学者らの仏教批判やそれに影響を受けた水戸藩の神仏分離政策は始まっていた。 江戸時代の寺請制度への不満反発、そしてそのもとでの神社側の不満が極端な廃仏毀釈の背景にあったことが、個々の

読書記録「三島由紀夫と司馬遼太郎「美しい日本」をめぐる激突」松本健一著

新潮選書 2010 三島由紀夫をロマン主義(芸術至上主義)、司馬遼太郎をリアリズムとして対比させながらそれぞれの思想に迫った一冊。 三島由紀夫と司馬遼太郎が1歳と少ししか違わないことになぜ今まで気がつかなかったのだろう。 戦争体験を持つ司馬に対して三島は徴兵を免れているので年代が違うという印象を持ったのかもしれない。 2人の人生が交錯することはほとんどなかった。三島の死の直後に司馬が毎日新聞に批評を書いたことが唯一といってもよい。 戦後日本、中でも高度経済成長の日本に対

読書記録「日本人は何を捨ててきたのか 思想家・鶴見俊輔の肉声」鶴見俊輔・関川夏央著

筑摩書房 2011 後書きによると、1997年と2002年にそれぞれ京都で行われた対談を2010年になって一冊の本にまともの。 読者をあまり想定していない対談本という印象。ある程度互いを分かり合った上で私的に話をしている感じ。 もっとも、“思想家・鶴見俊輔の肉声”とあるのであえてそのまま本にしたのかもしれない。 例えば、対談を通して出てくる“悪人”や、”スキンディープ”という語。対談している2人の間では伝わったのかもしれないが、説明が十分ではないと思う。 本にすることが前