成仏させる。#1

よくある話をする。

3年前に別れた4つ年上のお付き合いしていた男がいた。
2年付き合って、丸2年が経つころ突然別れを告げられた。

その男は私との付き合い始めは28歳フリーターで、
夏場はアウトドア会社でアウトドアガイドをしていた。
冬はライブハウスのドリンカーをしたり
冬場でも少ないアウトドアの仕事をこなしていた。
当時は実家暮らしだったし、夏の仕事の給料で冬を越せるくらいには稼いでいた。

好きになった理由は覚えていない。
なんとなく、流れで。
ただ、初めて会ったときにこの人と付き合うかもしれないという直感はあった。
その男は私がその前に付き合っていた私にとって初めての彼氏でもある人の先輩でもあった。

所謂「略奪」された訳だ。
その彼とは一度だけ破局したのち復縁したりして結局は6年ほど付き合っていた。

男性経験はその彼しかなく、恋愛の良し悪しもよくわかっていない馬鹿な24歳だった私。
今思えば馬鹿なことをしたなと思う。
（だからといって6年付き合った彼と別れて後悔をしたことは一度もないのだが）
（この彼の話はまた機会があれば）

本当にスルッと、私の心に入ってきて
私もまた彼の心にスルッと入っていったと思う。

付き合っていた2年の間は、お互い旅行が好きなこともあって何度も国内旅行に出かけた。
向こうの両親にも公認で、4人で旅行に出かけたこともあったし、両親と兄夫婦と食事をしたこともあったし、こちらの両親や家族とも会うことも何度かあった。

喧嘩をすることもなく、どちらかの気持ちが不安定になることもなく、安定したお付き合いをしていたと思う。
まあ、今思えばもしかしたら私だけがそう思っていたのかもしれないが。
私はこのまま「結婚」するんだろうなあと思っていたし、彼も何度もそのようにつぶやいていた。
同棲の話も出ていたし、これまた人を疑うことを知らない馬鹿な私は近い未来、そうなるのだと信じきっていた。

その男は私と付き合い始めて1年ほどで就活を始め、あっさりと就職した。とある企業のサラリーマンになった。
実家を出てひとり暮らしも始めた。
彼曰く、「君との今後を考えて」とのことだった。
おかげで信用した。あまり人を疑うことがないわたしの性格でもあった。

そしてまたそれから1年。
その男は私に別れを告げるのだ。
理由は「仕事も軌道に乗ってきて、忙しい中でも趣味やプライベートの時間をもっと大事にしたいので今は彼女はいらない」とのことだった。

その男の30歳になる誕生日の2日前のことだった。

馬鹿な26歳の私は、なんの前触れも感じていなかったし、なぜ急にと混乱し、泣きわめいた。
大切な彼の30歳の誕生日にはちょっといいネクタイと、温泉旅行を準備していた。
行き先は知らなくともその男には1泊の旅行に行くことはその前から伝えていた。

もう少し冷静になって考えてほしいと縋った。
馬鹿な26歳の私はせめて温泉旅行には行こうと、無理やり説得してその男も承諾した。

2日後、私たちは地獄の旅行に出かける。

つづく。