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2023年 国内インディーズ 聴いてよかったアルバム/EP 10選

年間ベスト、一度書いてみたいな〜と思ってはいたものの、恥ずかしさや忙しさもあり毎年手をつけられていなかったのですが、今年の年末休みはそこそこ時間的にも余裕があるしせっかくだから書いてみよう、と思い立ち作成してみました。
海外については狭いジャンルばかり聴いてるし、私よりも詳しいリスナーが国内外にたくさんいるのであんまり書く必要はないかな〜と思い、国内インディーでのリリースという枠を設けて10枚選出してみました。特定のジャンルに絞るよりも適度に音楽性にバラつきができてよい塩梅になった気がする。
以下に紹介するアーティストの多くがここ数年に結成ないし活動開始しており、コロナ禍を経て現場で活躍するバンドやアーティストの母数が増えてきた点は本当に良かったな〜と思います。
順不同で、特に順位等は設けていません。

乙女絵画 - 川

札幌の大学生により2022年に結成されたバンドの1stアルバム。
羅針盤(山本精一)、渚にて、埋火などの「うたもの」系バンドを連想させる幽玄なジャパニーズ・サイケデリア~アシッドフォーク。全体的にスローなテンポで進行しつつも、随所でダイナミックに展開するバンドサウンドはDuster等のスロウコアやtexas pandaa等の国内シューゲイザーに通じる空気感もあり。
近年の国内アーティストを引き合いに出すならばbetcover!!や東京のくぐり等と関連づけて聴くこともでき、様々なジャンルのエッセンスを採り入れつつセンスよくまとめ上げたバンドを現役大学生がやっている点にもかなり驚き。
個人的に今いちばん東京でライブを見てみたいバンド。

pile of hex -LIQUESCENCE

2019年頃(?)に活動を開始した京都のバンドpile of hexの1stアルバム。2019年の1st EPに続く2作目。本作は2023年12月現在CDのみ販売されており、サブスクでは1曲だけ先行配信中。
tiny script endingsによるインタビューにてメンバーが言及しているBjorkやBlonde Redheadにも通ずる、チャントのような独特のボーカル/コーラスワークと、往年のスロウコアやポスト・ハードコアを想起させるようなタイトかつダイナミックなサウンドが特徴的。緊張感あふれるギター2本の絡み合いはDenali (Engine Down, Sleepytime Trio) などLovitt Records系のバンドを思い起こさせる雰囲気も。同じ大学のサークル出身というVINCE;NTや5kaiにも通ずるような、バンドサウンドの妙をストイックに追求する姿勢も魅力的。
筆者は2022年に新宿NINE SPICESで一度ライブを拝見していますが、アルバムレコーディングを経た今の完成度でも是非ライブを見てみたいバンド。来年の東京でのレコ発が非常に楽しみ。

Texas 3000 - tx3k

2019年頃に結成され、2023年より本格的に活動を開始した東京のバンドによる1stアルバム。
ラウドに響くエモコア的なパートと、ゆったりと聴かせるギターポップ的なパートをめまぐるしく行き来する展開は、Polvoなど90年代のUSインディーや、Faraquetなど一時期のDischord系バンドを彷彿とさせるムードがあり、またTeenage Fanclubにも通ずるような控えめかつ芯をとらえたポップセンスとも相俟って、2023年を生きる都内のインディーロックおじさん達に大きな衝撃を与えた。個人的には、筆者の旧友が以前やっていたバンドPotlucksとサウンド的に近しく感じられる瞬間が多く、ノスタルジックな感傷を掻き立てられる。
11~12月には後述するCruyffと共同での国内ツアーも実施しており、同バンドと並んで2023年の国内インディー・シーンにおけるゲームチェンジャーとなったバンドだと言えるだろう。今後の活躍にも期待大。

Catastrophe Ballet(カタストロフ・バレ) - NARCIS

ハードコアバンド・SOILED HATEのボーカル、たたかうおどる氏らにより2023年に結成されたバンドの1st EP。
1曲目はローファイな音像の80sポストパンク風なイントロから始まるものの、ボーカルが入った瞬間に「ポ、ポジパン…?」と一瞬面食らってしまうレベルで大きく雰囲気を変化させる。
このジャンルについては浅学なため良い例を引き合いに挙げられないが、Bauhausなど海外のポストパンク・バンドから直接影響を受けて生まれた80年代当時の初期ビジュアル系(ポジパン)的なテイストを濃厚に感じさせる、現行シーンにおいては極めて異質なサウンド。M-2「大電球虫」の歌詞世界などは筋肉少女帯の楽曲に通じる幻想的なムードもあり、またサウンド面に注目すればMarbled EyeやBelgradoなど近年のポストパンク・リバイバル系バンドとも並べて聴くことができるかもしれない。80年代のミニコミっぽいお耽美なジャケット・イラストも絶妙。
インディー/オルタナ系の分野であれば国内外を問わず80s/90sリバイバル的なサウンドのバンドが多くいるが、ことビジュアル系に関しては今のところそういったバンドの存在を聞いたことがないため、今後どういったシーンで活躍していくのかも非常に興味深いバンド。お披露目ライブではステージでの振る舞いも含めて高い完成度のパフォーマンスを楽しむことができたので、安易にイロモノ枠に押し込められないよう頑張ってほしい。

ofton fun club - SODA

xiexieやリサとカヤ等のメンバーにより2022年に結成されたバンドの1stアルバム。
初期のさよならポニーテールやRound Table (featuring.Nino)など、00年代のポスト渋谷系/アキシブ系アーティストを思い起こさせるような、シンプルで控えめなアレンジが楽曲の良さを引き立てる、清涼感あふれるネオアコ/ギターポップの良盤。パパパ・コーラス押しの曲もあり、Camera ObscuraやCardigans、Pastelsなど往年の海外ギターポップが好きな音楽ファンにもおすすめしたい一枚。
一聴して尖った特徴を見出しづらいポップス・バンドって、正当に評価してくれるシーンやリスナーにリーチするのがなかなか難しいよな~と思うことが多いのですが、このバンドに関してはシューゲイザーやインディーポップなど若干ニッチなジャンルの文脈でも評価されるポテンシャルがあるような気がする。まだライブ観られてないので来年絶対行きたい。

DIMWORK - Embers

malegoat, The Firewood Project, akutagawa, threedays film, Mugwumps, Wiennersなど錚々たるバンドのメンバーにより2022年に結成されたバンドの1st EP。
各メンバーのバックグラウンドはエモやメロディック・パンクが中心だが、こちらではSlow Pulpなど現行のUSシーンを彷彿とさせる良質なインディーポップを披露している。同じく2023年にリリースされたANORAK!とのスプリットに収録されている楽曲「Link」も素晴らしかった。2022年末から何度かライブも拝見していますが、百戦錬磨のメンバー達による卓越したパフォーマンスもさすがの一言。
10年以上にわたってインディーシーンを牽引した先輩方が新しいバンドを結成して古臭さを感じさせず、むしろ国内の若手バンドがやってないような現行の海外インディーに接近した洗練されたサウンドを余裕でやりこなしてるのは普通に憧れるし勇気づけられますな。

COGMEL - シュクルリ

『魔法陣グルグル』シリーズで著名な漫画家・衛藤ヒロユキ氏が2019年頃に開始したソロ・プロジェクトの3rdアルバム。
氏は漫画家としてのキャリアと並行して1990年前後から音楽活動を行っており、90年代当時から一貫して製作し続けているブレイクビーツを主軸にした歌モノを本アルバムでも聴くことができる(初期の楽曲は、自らデザインを手掛けたゲーム『フラグの国のアリス』のBGMや、リミックスを提供したコンピ『765 mega-mix』などで視聴可能)。本名義では、声ネタとしてボーカロイドを積極的に活用しつつ、よりダウンテンポ~ラウンジ系のジャンルに接近したチルでドリーミーな楽曲を多数発表している。SPANK HAPPY(菊地成孔)を始めとした90s~00年代初期の渋谷系アーティストと共鳴する雰囲気がありつつも、Snail's HouseのようなKawaii Future BassやIn Love with a ghostのようなLo-fi hiphopなど10年代以降のアーティストとも並べて聴ける、タイムレスな魅力を感じさせる作品。
ボップでファンタジック、少女趣味的かつ時々ダークでアンニュイなムードを醸し出す世界観は氏の漫画作品とも共通しており、『グルグル』ファンのみではなく、より広い世界の音楽ファンにも聴かれてほしい一枚である。
プロ漫画家として連載を持ちながら年1枚くらいのハイペースでコンスタントにアルバムをリリースし続け、毎年恒例のファンミーティングの自主企画も欠かさずこなすバイタリティも半端じゃない。DIYの鬼。

SAGOSAID - Tough Love Therapy

she said(活動休止中)のギター/ボーカル佐合氏によるソロ・プロジェクトの2ndアルバム。
以前よりSnail MailやBeabadoobie、Wednesdayなどの海外インディーバンド/シンガーを引き合いに語られることの多いアーティストだが、今作は英詞だけでなく日本語詞を採用した楽曲も多く収録されており、新境地への到達を感じさせる一枚だった。the brilliant greenやCharaなどY2K期のオルタナ系アーティストをも連想させるムードの漂う楽曲群は、近年のラブリーサマーちゃんやHoach 5000などの国内アーティストとも共鳴する部分があるが、こちらはよりローファイでラフな、カラッとしたサウンドが前述の海外インディーを思わせるような魅力を引き出してて良かった。これからも折に触れて繰り返し聞きたい一枚。

Cruyff - lovefullstudentnerdthings

2021年に活動を開始した東京のバンドによる1stアルバム。
本バンドについては以前の記事でも触れたが、前述のTexas 3000と同様に2023年に活動を本格化させ、多数のライブアクトをこなしたことで国内インディーシーンで特に大きな注目を集めたバンドのひとつといえるだろう。インタビューではTitle FightやNarrow Headなど2010年代以降のUSシューゲイザーに言及しており、本アルバムでも現行の海外シーンからの影響を消化したグランジライクなサウンドを聴くことができる。また、元々は中心メンバーがソロでSoundCloud上にベッドルーム・ポップ系の楽曲を公開していたことが活動のきっかけとなっているためか、良い意味でバンドサウンドに固執しない多様なアレンジを楽しめる点も良いアルバム。ライブではサンプラーやボーカルエフェクターを活用したトリッキーなパフォーマンスも行っており、観るたびに変化し続ける様を楽しむことができた。
メンバーのSNS投稿によると、現体制でのライブは今年中に終了し、来年以降はまた異なる方向性に移行する様子である。そちらもとても楽しみ。

山二つ - テレビ

2020年に結成されたバンドの1stアルバム。家主(田中ヤコブ)、台風クラブ、本日休演、すばらしか等が所属するレーベル・NEWFOLKからのリリース。
同レーベルに所属する他アーティストの作品群と同様に、洗練されたソングライティングやアレンジを聴かせる良質なジャパニーズ・ポップスである。家主や台風クラブと比べるとアコギやピアノ、ピアニカ、マンドリンなどアコースティック楽器を活かした編成の楽曲が多く、詰め込みすぎず余白を活かしたサウンドはyumboやGUIRO、近年のTaiko Super Kicksなどを連想させる雰囲気もある。一枚目にして非常に完成度の高いリスニング・アルバムに仕上がっている。
筆者個人的には、カクバリズム/felicity/下北沢インディーファンクラブ/ココナッツディスク吉祥寺などがキーワードになっていた2010年代前半から、10年代中頃のシティポップ・ブームに向かって洗練されていった国内インディーのムードの先にあるのがNEWFOLK関連のアーティスト群、のような雑な史観を持っているのですが、ここ数年は自分のバンドの兼ね合いもあってエモやハードコア系の現場にばかり足を運んでいたので、来年余裕ができたらこの辺のアーティストのライブも観に行ってみたいところ。


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