あの日の夢が醒めても
私は、人生で何度目かの絶望を感じていた。
でも先に言っておくと、そこまで深刻な話では無い。
今から書くことは、そこら辺にいる普通のオタクがひょんなことからオタクをやめた、ただそれだけのお話。
私の前回の絶望は確か、次のタイミングで選出されるよと上司から言われていた会社の狙っていたポジションに、
独身で自分より歳下の男性が選ばれたことがわかった時だった。
もしかしたら本当に仕事の出来だけで選考され
私が単純に彼より能力が低かった、それだけのことだったかもしれない。
だけど、もし私が独身だったら?子どもがいなかったら?全国転勤ができる立場だったら?年齢が今よりも5歳若かったら?
それでも、本当に彼が選ばれていた?
数年間ゴールの見えないマラソンを必死に走ってきてやっとたどり着いたと思った私の目の前に出てきたのは
"ゴールはこの先"みたいな看板でしかなかった。
当然、もう走り抜ける力は残されていなかったし、私はしばらくして会社を辞めた。
そんな私がまたちょっとした絶望を一瞬抱えた今回の経緯は誰にも詳しく話すつもりはない。
それがどんな理由にしろ、今そちらの界隈にいる方たちに話すことではないと思っている。
ただ、それまでいた世界と私との間にはっきりと線が引かれ、私はどうしてもその線の越え方がわからなかったし
どうしてこうなったのか考えようとしても、抱えきれない感情の波にのまれて脳が思考を停止させてくる。
だから私はこの問題について考えるのをやめた。
いわゆる、担降り。私は生活の中心だった推し活から離れた。
人生で初めてこんなにはっきりとした担降りというものをしてみて、それがとても失恋と性質が近いものだということを知った。
部屋を見渡せばグッズやCDが目に入り、デスクには雑誌と写真が飾ってあり、テレビの録画設定には見慣れた番組名がずらっと列ぶ。
消せないでいた番組、まだ観ていなかった録画した番組、さっと目を通して後でじっくり読もうと思っていた雑誌。
推しのメンバーカラーが溢れる身の回り、携帯を開くと溢れている情報。
ちょっと、なにこれ。大変。
まぁでも、そうだよな。
推し始めてからというもの、世界の中心が推しだったし
推しのために生活していたと言っても過言ではなかったし、
常に頭の片隅には推し活のことがあったんだから
そんなの、もう恋愛と一緒だよ。
リアルな恋愛感情を抱いていなくても、使った時間と気持ちがそれなりにある場合
失った時の感情は、恋愛のそれと近くなっても不思議では無い。
好きな人を失う時の地獄なら、私は今まで何回も落ちてきた。
生活の全てが彼のことを思い出す地雷になり、
例えばペットボトル1本だってそれが彼が置いていった物ならナイフになって一直線にこちらに刺さってくる。
この時のナイフの切れ味といえば、鮪の解体だって牛一頭だって撫でるだけでスパッと切れる名刀で、飛んでくるのを避けることなんて不可能。
1日何百本のナイフが刺さってもう刺さるところがないくらいになった頃、やっと長かった1日が終わり
私は1本1本刺さったナイフを抜いて血を流しながら、
傷の痛みに耐えられないとつらつらと涙をこぼし
眠れもせず夜がただ過ぎ去るのを待つ。
当たり前に何かを食べたいという欲も消え去るから、3キロくらい痩せるのは3〜4日あれば簡単だ。
この種類の絶望のやり過ごし方は人によってきっと対処法が違っていると思っていて、
私にとっての解決策は「時間」と「人からもらう優しさ」が、
息ができる地上の世界へと繋がる梯子になってくれる。
これはいつの日か、ガイドブック地球の歩き方ならぬ地獄の歩き方を執筆する事になったら詳しく書こうと思ったけど
そんなガイドブック、タイトルからしてもうだめ。
今回、オタ垢から転生した私に
なんかあった?と聞いてくれることはあっても決してそれ以上踏み込もうとしない、
それどころか戻ってきてくれて良かったと言ってくれるTwitterで繋がることができたみんなの優しさに救われていて
その優しさで、私は人間の形を保っていられた。
これを読んでくれているTwitterのお友達のみんな、本当に、ありがとうございます。大好きです。
みんなの毎日がやさしい世界でありますように。
さて、これを書いている時
私は成田へと向かう飛行機の中にいる。
たまたまどうしても行かなければいけない仕事みたいなもので突然決まった予定だけど、私は絶望を抱えながら乗る飛行機が好きだ。
離陸する時の身体全体に感じる前に進む機体の巨大なパワー、グングンと空の中を進む飛行機、そして着陸すればもうそこは数時間前にいた場所とは何百キロも離れた、見慣れぬ土地。
地獄の沼の中心に浸かっている私の気持ちなんてお構い無しで、強制的に全く違うところへ連れてってくれる。それがとてもいい。
人生の全てが嫌になったり、今いる場所から離れたい、
全てのことから距離を置きたいと思った時に
飛行機に乗って物理的に離れた場所に向かうのは、結構有効な自分の癒し方だと思う。
最後に、このnoteは私のマイクならぬペンライトを心のステージの真ん中に置いて
『普通の女の子に戻ります』
と宣言するアレみたいなものだと思ってもらえたらとても嬉しい。
これを読んでくれている推しがいる全ての皆さまが、
これからも推しとたくさんの夢を見て
ずっと、幸せを感じて過ごせますように。
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