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📖自分のことは話すな|吉原珠央

大学の同期に、会話の美しい友人がいる。当時から話下手な私は密かに敬意を抱いてきた。『自分のことは話すな』に引き寄せられる程度に話下手を自覚している私は、(あんな風に話せたら)と思って、会う度「話し方」に見惚れてしまう。

彼女は、私に話を振ってひとしきり耳を傾けてから、自分の話をゆっくりと語り出す。切り出された様子伺いや質問が、彼女の話したいテーマの伏線であることに気付いた瞬間は感銘すら覚えた。伏線とはいえ、踏み台にされた気分には全くならず、むしろ親身に寄り添って話を深めてくれて満たされる。別れたのちも、心地良くお話しできたと安心感に浸る。自分ばかりが話してしまった罪悪感にも陥らない。彼女の興味深い話題や経験に、聞き手になれた満足感もある。私は彼女のように話せるようになりたい。

幼少期から高校生くらいまで、「自分の話でいかに相手を楽しませるか」がコミュニケーションの術だと思い込んでいた。自分の中の話し方のコペルニクス的転回が起こったのは、高3の頃だっただろうか。まあるい顔いっぱいにニィと笑う、わりに背丈の小柄な野球部のあの子。「お前は内輪話ばかりなんだよ!」とツッコミを入れてくれる紳士は、後にも先にも彼一人だった。「俺が(お前の話を)落とさないと(教室の空気が)地獄だからな」とも言っていた。私は落とされ笑われることによって、立場を保てていたのだ。感謝している。

あなた、きっとあの頃から彼女のようにキャッチボールをよく知っていたのね。世間ではオオタニさんの方のショウヘイが、皆のヒーローたる存在。私にとってのヒーローは君だったよ。ショウヘイ。

齢をいくら重ねても、人と上手に話すことは難しい。未だに幼少期の転校や、会話に乏しかった家庭に生まれ育ったことを恨めしく思うこともある。それでも、今はごくまれに(今日は上手に話すことができた)と、自分を許すことができる日もある。あの子たちの力だ。


2022年読了✍️
『自分のことは話すな 仕事と人間関係を劇的によくする技術』/吉原珠央/幻冬舎新書
・相手の話題を「私は〜」と奪わない
・相手の情報を得てから会話する 意味ある雑談 的確な助言ができる
・褒めよう<感謝尊敬を発見しよう
・無礼な人には淡々と微笑む


 #読書感想文 #自分のことは話すな #吉原珠央 #yyaannsskkの本棚

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