”バケツをひっくり返したような雨”
2021年03月22日
”バケツをひっくり返したような雨”という慣用句が好きだ。
とても豊かな言葉だと思う。
突然の大雨。空前絶後、天変地異の大雨。まさに”バケツをひっくり返したような雨”。
でも、この文には、その前日の、雨の予感も感じさせない真っ青な青空の景色が含まれている。
晴々とした青空があるからこそ、”突然の”大雨なのだ。
一生振り続けるんじゃないかというぐらいの大雨。
しかし、バケツを一度ひっくり返せば、バケツの中身は空になる。
今までの雨が嘘のような、雲を割ったような快晴。地面には大きな水たまり。水面に反射する太陽光。
一つのレトリックに三様の景色が包含されている。それぞれがとても美しいと思う。
美しいだけじゃなくて、この言葉を聞くと憂鬱な雨の日が愉快に思えてくる
まず、水いっぱいのバケツをひっくり返して、雨を降らす図を想像する。
真っ白の、上にのれて移動できるタイプの雲に、
キリストとモーゼと仙人のあいのこみたいな神様がいる。
便所掃除用の、いかにもバケツらしいバケツに、タプタプ水をため、
いい頃合で人間界にぶちまけてる、ヤンチャな神様の姿が目に浮かぶ。
多分神様は、じじいだから歯がないだろう。
歯茎丸出しでギャッヒャッヒャなんて笑い声ではしゃいでいる姿が目に浮かぶ。
楽しそうに。
そりゃ神様だってたまには、はしゃぎたいことだってあるもんなぁ。
あぁユカイ、ユカイ。
そう思うと、靴に水がしみこむぐらい、洗濯物部屋干ししなきゃなんないぐらい、どうってことなくなる。
雨音のダンサブルなリズムも気分を高揚させる。
ジーンケリーが傘もささず、一眼もはばからず大熱唱できたのも、大雨だったからかもしれない。
小雨だったら、流石に鼻歌程度で済ませていただろうに。
そう思うと、言葉や音で軽々と憂鬱な気分を吹き飛ばせるんだから、
人間って結構お気楽な生き物かもしれない。
※以前書いていたアメブロからの転載記事です。
https://ameblo.jp/yosidayy/