【小説】秀頼と家康の会見 完

家康は一人の武士として、若き主君に対し憐れみでも、情けでもなく、同じ武士として言葉を発した。

もはや徳川と豊臣は水と油のようなもの。天下に主人は二人といりませぬ。

張り詰めた空気が、廊下にまで伝わった。まるで乾いた音でも聞こえるように草木が擦れる。

茶の湯の波紋が収まる頃、秀頼は応えた。

で、あろうな。

家康は戸惑った。

それでも、戦う、と申されますか?

秀頼は白い歯を見せ、微笑んだ。無垢な笑顔だった。

もとより、そのつもりじゃ。徳川殿と今日、一人の武士として話が出来て良かった。私が作りたい世は、人が血で血を洗うこの戦国の世を終わらせ、民衆が今日や明日を懸命に生きられる世をつくることじゃ。民衆の活力がこの国を豊かにする。そんな民衆に絶望を与える戦国はもう仕舞いにしたい。

そして、秀頼は言葉を繋げる

家康殿も同じ考えだと分かった。ゆえに、安心してやり合うことができる!

若者特有の、無鉄砲な笑みだった。

言っておくが、豊臣は強いぞ。

家康は、呆然とした。そこには、本物の主君がいた。この若武者が自分の息子だったら、なんと有り難いことか。もう少し生まれるのが早かったら、歴史の歯車はまた変わった動きをしていただろう。しかし、秀頼の覚悟は本物のだった。

覚悟しておきまする。

そう言って家康は二条城を後にした。この国を豊かにしたいと、誰よりも願う若者を殺して、この国を豊かにしていく。その事の、責任の重さを噛み締めて、家康は大坂の役に向かうことになる。





歴史を学ぶ意義を考えると、未来への道しるべになるからだと言えると思います。日本人は豊かな自然と厳しい自然の狭間で日本人の日本人らしさたる心情を獲得してきました。その日本人がどのような歴史を歩んで今があるのかを知ることは、自分たちが何者なのかを知ることにも繋がると思います。