「10万円の使い道」介護施設のジジ・ババに聞いてみたら８割は感動だった話

私が務めている介護施設のジジ・ババに「国から10万円もらったら、何使う」可能な限り聞いたら、笑けて、泣けて、感動した話をここに。

流れはこう

1.井上が聞く
2.ジジ・ババが答える

それでは行ってみよう〜！

井上：

「今、国から10万円もらえるってテレビでやってるけど、何使う？」
（次回から省略）

ババ：

「イモ買う！サツマイモ〜！！あ、あい〜あんまり食い過ぎると屁出るな！！でも食うか！」

ババ：

「仏壇に置いてもらう。父ちゃんに一回報告して何使うか一緒に考えるべかな〜？」

ババ：

「まご！まご！まご！！2人のめんこちゃんが居るのよ〜！何買ってやるか？ランドセルは買ったし、服かな〜？今度来た時聞いてみるか！」

ジジ：

「息子さ、やる。いつも仕事頑張ってるし、忙しい時でも母さんと出かけたり時間作ってくれたからな〜」

ジジ：

「酒、買う。飲む」

ババ：

「娘さやる。あい、長女にやれば良いべか？次女と三女は大丈夫だべか？」

ババ：

「ん？んん？んんん？」

ババ：

「・・・・・・」

ババ：

「墓さ持ってく！父ちゃんさ持ってくな！」

ババ：

「ここの職員さんにやる。いっつも頑張ってもらってて」

ババ：

「菓子、買う！！残ったらアイスだな笑！」

ババ：

「これ〜その〜・・・・」

ババ：

「あい〜どうするべか？まず眺めてみるかな」

ババ：

「嫁さんさやる。そいで家族に美味いもの食わせるようにいうじゃ」

ババ：

「死ぬまで持っててもしょうがないからな〜」

ジジ：

「わかりません！」

ババ：

「あら〜そう。まず扇ぐかな」

ババ：

「家さいっても、みんなできりたんぽ食うな！娘に話とく！！」

もう少し細かく解説

最初に聞いた人が「イモ買う！」は笑った。10万で！どんだけ好きなん？って思った。けどこのばあちゃんは最近、経口摂取を始めた（口から物が食べれなかった人）で「なになら食べれるの？」と聞くと「イモ！サツマイモ！！」とまんまるな目をさらに大きくして大きな声で話した。それから経口摂取が始まり、見事にサツマイモを食べることができた。あの時の顔、顔から「ピカーんっ！」って効果音と光がはっきり見えた。

仏壇に置いてもらうと話す、ばあちゃんはいっつも「父さんが父さんが」と大のお父さん好き。亡くなったのは大分前だけど家に居る時は仏壇の前に座って拝んでるだって。父さん10万円もらったって話したらなんて答えるんだろうね。

まご！まご！と話すお孫さんは小学校はとっくに過ぎていて面会にも来る。来た時は小学生の孫ではなく、大人になった孫へ、ばあちゃんは混乱することなく会話を弾ませる。部屋に戻って1日経つと「ほら〜みろ！めんこいで、この前小学校上がって、上の子はそろそろ中学だ〜！」と写真を見せてくれる。ばあちゃんの中で孫は小学校で止まっている。それは忘れているのじゃなくて孫との思い出が深いからなんだろうね。

奥様も一緒に入所していた。飲食店を営む息子さんは朝から晩まで働いているけど病院の通院だけは必ず時間を作ってやってくる。奥さんの通院にいっつも旦那（じいちゃん）も連れて3人で小さい車に乗り出かけていった。自分のところでお昼を食べて来ることあった。戻って来ると息子さんは「お願いします」と話、足早いに車を走らせて夜の準備に戻っていった。奥さんが先になくなった時のじいちゃんはケロっとしてた。けど奥さんが亡くなって最初に息子さんが面会に来たあと、夕食を食べるちょっと前、寂しさが滲み出るように下を向いてスッと上を向いていた。

お酒とタバコであたってしまったじいちゃん。そこから一切飲んでないらしい（本人曰く）この前、機会があってノンアルコールビールを飲んだ。500mlがみるみるうちに口に入りじいちゃんの細い体に入っていく。1本、2本、3本と気づけばじいちゃんの前に潰れたビール缶が横たわる。「おいさもくれ」とコップを向けるとビール缶を傾けてトクトクトクと注いでくれた「おう、おう、おおっとっと」並々まで・・・じいちゃんは片方（右側）の体が動きづらい。利き腕は右。そいでも左手でビールを注ぎ、持って飲んで笑ってた。10万で酒買うか。量より質？そいとも良いやつ買うか？

三人姉妹のお母さん。面会によく来るのは長女、外泊や大型連休になったら帰って来るのは次女。母の日にメッセージと花を贈ってくるのは三女。全員お母さんに似てる。「誰に渡せばいったか？10万円」「子供三人なら割れないよ・・・」と話すとポカーンとしてる。いつもは「なんでおらのことここさ預けたべか？家さ帰らせろ！」と娘がくる前にチクっと話す、ばあちゃんだけど娘が帰ると「やっぱり娘だ、家族は良いもんだな」とホロっと話す。大丈夫、あんたの娘はお金では喧嘩しないよ。

話すことがちょっと難しい、ばあちゃんは会話がないと思われがちだけど表情はすっごい豊か。喜怒哀楽は百面相のように使い分け言葉でなく表情で伝えてくる。99％上手くいかないけど100回に1回はバチっとその疎通があう「これで良い？」「ん！ん」は「んだ！わがった」とはっきりと耳が変換してくれる。疎遠にするのでねく、むしろ親密にたくさん打席に立てる喜びがドアの向こうにはある。

「・・・・・・」表情での疎通が難しいばあちゃんもいる。このばあちゃんは前はなんでも一人でやってたばあちゃんだった。ひょこっと出て来てテクテク歩き良く頭を抱えてた。「どうしたの？」と聞くと「忘れた」と話しまたテクテク歩き出す。今は動きやすいところは少なくなったけどまだ、目は動く。ギョロッとこちらを見る。サッと流す。段々と目が大きくなる、全く開けない。そんな目の表情に日々、自分になりに効果音と吹き出しをつけて疎通を図る。今回の「・・・・・・」は「ワシャ、知らん」だったと思う。お金のこととか気にしない人だったからな〜

「墓に持ってて、埋めるの？」、「なんも！父ちゃんさ見せらった」「お線香のところに置けば火つくかもね」「花瓶に刺したら濡れるしな」「んだな〜、あ！あんたも一緒に来てけね！父ちゃん紹介する」と言う事でそのうちばあちゃんと墓参りに行く予定ができました。

「この職員さんの名前っこは？」「・・・わからない」「こっちは？」「忘れた・・・」「じゃあこの人は？「◯◯ちゃん！！」もう秒を超えてちょっとだけ音速だ。90歳を超えてから職員の名前を覚えだしたばあちゃんの1番の理由は「お世話になっている人の名前は忘れたくない」この思いで日夜、職員の名前を覚え中。頑張ればあちゃん！

「働いてる時のお金何に使ってたの？」「ん？預けるもの預けて手元にあらったば、菓子買ってた！そいとアイス！！」なるほど、そのお腹とお尻はお菓子とアイスで出来てるのか。納得の貫禄。

声かけに反応はあるも返答にはなりずらい、おばあちゃん。次元が違うのか会話はいつもジブリッシュ。だけど話すとニコっと笑うその顔はきっと嬉しいことや楽しいことを話した後のキメ顔に違いない。

10万円眺めて、どうするんだろう？あわよくば私の10万も横にお邪魔して20万円を2人で眺めて見るもの乙かもね。

息子より嫁さんが良くくる。悪い意味でなく、息子さんは仕事が忙しいらしく面会や行事は大体お嫁さん。ばあちゃんは嫁さんが大好きだ。帰った後に「あの嫁っ子忙しいんだけど、ああやってくらった。家に居た時も悪い顔ひとつもさねで、、、色んたこと手伝ってくれたな。俺の息子本当に良い嫁っ子もらったもんだ〜」そう話す。ばあちゃんと嫁さんは息子さん以上に顔が似ている。きっと相思相愛なんだろう。

死ぬまで持ってる＝ガメツイ。とんでもないこのばあちゃんは人当たりの達人だ。「もしもし〜」と話すとニコッと笑って「あら、なしたの〜？」と答える。イラっとしたことがあるのかと思うほど仏のばあちゃん。そんな、ばあちゃんには家族も友達も多い。そんな中で誰にこのお金を使って良いのかが分からないという。「無理に使わなくても良い」そう伝えると「んだね〜死んだら誰かが使ってくれるな」とまたあの笑顔が出てくるのであった。自分のためには使わんのね。

自分のことを「なにもできないダメな人間」と話すじいちゃん。「これもできなくなった」「あれもできなくなった」「私はダメです」ネガティブ思考かと良く良く付き合って行くと「人様にこんなことを手伝ってもらうのが申し訳ない」と話す。「もし目の前に手を差し伸べる人がいたらどうする？もちろん今じゃなくて、もっと若くて体が動く時」「そうしたらできる範囲で手を貸すよ」「んだ。じいちゃん前を向いて、それが今の俺だよ。なんてできる範囲は手を貸すよ」「ああそうか。申し訳ない。お願いします」と軽く会釈する姿はさっきより納得があった。

10万円で扇ぐ風って気持ちいいのかな？なんか生ぬるいような気がする・・・1万円札10枚のパターンと1000円札100枚のパターンで検証して見るか

「おれの家で、でーんときりたんぽ鍋みんながら食わしてやる。娘にも話しつけとくんて！！」そう話すおばあちゃんはいつだって人のことを気にかける。自分が眠そうにしてる時も「サッと休め。おれの布団使っていいんて〜」夜ごはんを食べた後も「おめんど、まま食ったか？あい？まだ？おれのことはいいんてゆっくり食べてこい！」なんでそんなに人のこと気にするの？と聞くと「周りの人を大事にしなさいって父さんと母さんに言われたから」と話す。きっとこのばあちゃんの父さんも母さんもそう教わったんだろう。それはちゃんと受け継がれている。だってこのばあちゃんの娘さんも周りを気にする人だもん。

気づけば20個の短編集になってた。
介護の仕事、高齢者の日常はやっぱり面白い。