寝床。

 あなたのからだは夜毎、脱げて行く。一枚の薄い皮が、電気の消えた後の静かな残像のように青白く脱げて、わたしはそれを寝床から天井へと目を見開いたまま、見詰めている。脱げた皮が煙草の煙の靄のように暗闇に流れて行く。ひっそりとしたからだを、そこに残して。

 わたしたちはいつだってあたらしい。きょうのわたしは、きのうのわたしと比べてどこか欠けているし、埋め合わせのように何かが萌芽している。欠け落ちたわたしを、わたしは床の上に見付ける。部屋の角で見付ける。ゴミ箱の中にも。それに名前をやれない。やれないまま掃除機で吸い取ったりもする。一日の終わり、西日の中にうずくまれば、足元で家々の屋根がきらめき、流した汗を風にさらして涼んでいる。開いた窓の一つに、風が訪れる。帰って来たのか、ようやく辿り着いたのか分からない、ささやかさで。

 浮かび上がる青白い靄に人差し指を差し入れ、かき混ぜるとたっぷりとぬるい泥のような感触がする。あなたのからだはひっそりとして、あたたかいのかもここでは分からない。わたしは脱げた皮をゆっくりとかき混ぜる。色が薄らいで、ぬめりのような感触だけが指先に絡み付く。それは段々と、重たくなって行く。わたしたちは、あとどのくらいの皮を脱げば楽になれるだろうか。西日の中で、流した汗を拭い取りながら。それでもまた新しい皮が内側から生まれて、萌芽し、いつの間にかこのからだになって行く。それを止められない。脱ぎ捨てて行くしかない。いつかのあなたを。青白い、一枚の薄い皮として。

 わたしは寝床から天井へと目を見開いたまま、見詰めている。