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しさく/スカート

 スカート  ゆずりはすみれ

自転車のうえで
スカート
揺れてる

八十くらいのお婆さんが
揺れてる
信号機のした
真っ黄色に

年老いることは
からだがちいさくなること
しわが増えること
目が悪くなること
耳が遠くなること
言いたいことだけ言えるようになること

かれんなわがままは
いつか花びらを落として
棘だけになる から
つつましく生きて行こう
そう思った 私は
自ら棘を抜いたのかもしれない

そうやって尖ったところをなくして
なめらかにいることを
守りすぎたのかもしれない

いま私は三十で
穿ける袴の色も違う
走っても汗が
噴き出ることも少なくなった
たらふく喰うと苦しいよりも 吐き気
弾力がなくなって
垂れ始めている

落ちた棘が
心根に刺さっている から
痛いんだ
飲み込んだことばも多かった
それは誰かを傷つけないため ではなく
私を傷つけないため だった
守りすぎて
なめらかさはかたく
萎れている

棘が また
尖り出ようとしている

年老いることは きっと
つつましくなることじゃない
ちいさくなっていくことでも
しわだらけになることでも
言いたいことを言えるようになること
傷つくことを厭わないこと
動けなくなる前に動いて行くこと
刺すために尖るのではないこと

お婆さんになっても
真っ黄色のスカートを穿けるようになること

自転車のうえで
揺れてた
軽やかにスカート
風に 車に 風に
尖り始めた私の棘にも
破れないで
なめらかに走る

(2017年11月29日に詩作)