wowakaが好きだったけれどヒトリエは聴いたことがないよって人へ おすすめの曲、アルバム


はじめに

 6日に全国ツアーの京都、岡山公演が「諸事情で」中止されたことで、既に一部では不穏な噂が広まっていた。中止のお知らせの理由で普通は使われることのない言葉、その文面が今年1月にFear, and Loathing in Las Vegasのベーシストだったkeiさんが亡くなったときのものを想起させること、ヒトリエのメンバーが全員3日以上Twitterを更新していないこと。それらももちろん不安要素ではあったが、よりいっそう不気味だったのは中止のお知らせがまだ発表されていない5日の夜の時点で、5chのヒトリエスレへは「亡くなったって…」と、ニコニコ大百科のwowakaの記事へは「ありがとう」という書き込みがされていたことだった。そして2019年4月8日の午前11時、広がっていた最悪の予感は現実のものとなってしまった。

 お知らせが発表され、それが爆発的に広がり、トレンドに十個以上wowaka関連のワードが入って、タイムラインに流れてくるのは「あぁ、裏表ラバーズの人ね」だとか、「ワールズエンドダンスホール好きだった……」だったり、よくある覚え間違えの「ロンリーガール、中学生の頃めっちゃ聴いてた!」など、wowakaのボカロ曲、について言及されているものがほとんどだった。
 誤解されるかもしれないが、そのことについての不満はない。「今現在最高傑作を更新している最中だったというのに、過去の人みたいに扱わないでほしい」だとか、「ずっとヒトリエに見向きもしなかったくせに、どうせ3日経ったら忘れるくせに、こういう時だけ反応して悲しいみたいな雰囲気を出してほしくない」という意見には一ファンとして共感するし、自分にとって大きな存在の人の死が、たいして好きでもないように見える人たちによって「今日あったニュース」くらいのノリで、コンテンツとして消費されていくのは確かに悲しい。けれど、そういった人たちが表面化されるほどにこんなにも沢山の人が彼の死を悼んでいるということ自体がそれだけで素晴らしいことで、彼がそれだけのものを積み上げてきたという何よりの証拠ではないだろうか、という思いの方が強い。
 有名人の訃報に対する反応はどうするべきだという話はキリがないのでここまでにしておき、ドライな視点で見れば、ボカロ黄金期を築いたそれらの楽曲の知名度や、シーンに与えた絶大な影響などをヒトリエのそれと比較して考えると至極自然なことだ。

 その知名度やボカロ出身という共通点、親交の深さから彼とたびたび比較される米津玄師もこう言うように、そもそも「ボカロっぽい」というイメージが、wowakaさんが作った曲によるものが大きいこと、彼に人気が出たことで彼に倣った「wowakaっぽい」曲(歌詞や雰囲気ではなく、主に高BPM、早口、高音と言った曲としての特徴)がその後乱立したことによるものだ。「ヒトリエはボカロっぽい」という感想はたまに出てくるが、それは順番が逆だ、というのはインタビューなどでもたびたび語られている。


 しかし、当時それだけの人気がありながら、wowakaは好きだけどヒトリエは聴いたことがない、と言う人はあまりにも多い。彼らの多くはアンノウン・マザーグースが2017年に6年ぶりのボカロ曲として発表されたとき大盛り上がりしていたので、ヒトリエの名前はどう頑張っても目に入るのでは?だとか、少しでも好きなアーティストならYouTubeから曲を漁ったり検索して情報を集めたりしないのだろうか?と言いたいところではあるが、「ボカロだから好きだったというだけ」「少しだけ聴いてみたんだけど声が受け付けなかった」といった理由がある人もいるだろうし、まぁそれは人それぞれとしか言いようがないししょうがないだろう。
 しかし、ニコニコも見なくなったうえ情報も追っていない、あるいは昔は好きだったけど今はそこまで……という理由からそもそもバンドをしていることすら知らなかった、という人もまた多いはずだ。バンドの存続すら危うい現在の状況で、そういった人たちが彼が遺していった作品を聴く機会は、不本意な形ではあるがwowakaさんがヒトリエを始めて以降最も注目されている今を逃せば今後来る保証はどこにもない。(もう遅い感じもあるけれど)
 

 ここまで長くなってしまったので結論から書いておくと、インディーズ時代のアルバムとシングルを合わせて再発売された実質最初期のアルバムである「ルームシック・ガールズエスケープ/non-fiction four e.p.」から入るのが「wowakaが好きだけどヒトリエは聴いたことがない」という人へのおすすめとなる。ヒトリエのアルバムはSpotifyやAppleMusicなど主要なストリーミングサービスで配信されているので、登録している人はそちらで聞いてほしいのだが、そうでない人にいきなりCDを買えというのはかなり難しいと思うので、とりあえずYouTubeにMVとして投稿されているものの中から紹介する。


1.トーキーダンス(2ndミニアルバム『モノクロノ・エントランス』収録)

 記事の趣旨、wowakaとヒトリエの橋渡しとしてこれ以上に適した曲はないだろうとこの曲を最初に選んだ。タイトルと少し聴いた感じからあれ?と察するかもしれない。そう、生まれ変わった「ワールズエンド・ダンスホール」だ。

 もちろん打ち込みからバンドサウンドになったこと、よりテンポが上がり激しくなったことなど細かな違いはたくさんあれど、構成やメロディなどは特に似ているだろう。初めて聴いても感じるインパクトの強さとノリやすさは健在だ。また、ヒトリエの楽曲では歌詞での視点に「僕」を使うことが多くなったが、この曲はボカロ時代の多くの曲同様「あたし」を使っているのでその点でも雰囲気の近さを感じる。

2.ワンミーツハー(2ndフルアルバム『DEEPER』収録)

 アニメ『ディバインゲート』とのタイアップもされ、YouTubeでの再生数も最も多いヒトリエの代表曲。ヒトリエの特徴として挙げられる高い演奏技術が存分に生かされていて、ギターもドラムももちろん素晴らしいのだが、ベースに関しては変態の一言。このレベルの演奏をライブでも寸分違わず再現できるのだから彼らの技術は間違いなく確かと言えるだろう。全国ツアーDEEP/SEEK最終日のライブ映像がYouTubeにも挙がっているのでぜひ見てほしい。あとは歌詞から「裏表ラバーズ」を思い出す人もいるかもしれない。演奏は複雑なものの曲の展開自体は王道でアニソン的なので誰にでもお勧めできる。

3.カラノワレモノ(インディーズ1stアルバム『ルームシック・ガールズエスケープ』収録)

 ファンからの人気も高い、インディーズ時代の名曲。wowaka曲のそこかしこから感じる寂寥感や孤独感が純度100%で抽出されていて、この系統の曲は「フユノ」や「(W)HERE」などがあるが、自分はやはりこの曲が一番好きだ。自分が「ルームシック・ガールズエスケープ」を勧める理由として大きいのが、この曲をはじめすべての曲に初期のwowakaエッセンスが凝縮されている、というもの。高いBPMに演奏は激しくでなんだか忙しないようだが、曲自体はシンプルで洗練されているし、「sisterjudy」から「モンタージュガール」への繋ぎはいつ聴いてもテンションが上がる。wowakaの作品としてはなんならここで一度完成形を見せているのだ。そして今まで基本的に一人で曲を作ってきたwowakaが他のメンバーの案を取り入れ始めたメジャーデビューシングルの「センスレス・ワンダー」がヒトリエとしての真のスタートだと私は考えている。2番サビ前のギターが本当に叫んでいるみたいでとても良い。

4.『リトルクライベイビー』(3rdフルアルバム『IKI』収録)

 「センスレス・ワンダー」が一つ目の転換点なら、この「リトルクライベイビー」は二つ目の転換点と言えるだろう。『そちらの世界へと行きたいんだ』と言っている「センスレス・ワンダー」をはじめ、『DEEPER』までは「ボカロPとしての自分を捨てて、バンドとして活動していく自分」のことを歌った曲が多かった。(「踊る」というワードを多用していることが顕著な例だろう)そこにはやはり盗作問題などで自分のことを散々に扱った挙句、自分の曲の表面的なところだけ真似された曲が蔓延っていたボカロシーン、そして新しいフィールドである邦ロックの世界では「ボカロPのバンド」と色眼鏡で見られることへの不満があったせいか、自分を肯定する内容の曲でもどこか後ろ向きなことが多かった。そんな中でリリースされたこの曲は、今までのヒトリエにはなかった、本当の意味で前向きな、希望に満ちたナンバーとなっており、この曲が収録されているアルバム『IKI』も多様性に富んだ素晴らしい内容となっていて、ああ、ヒトリエはここからさらに進化していくんだな、と思わされた。

5.SLEEPWALK(4thフルアルバム『HOWLS』収録)

 シンセの音が心地よくキャッチー。初めて聴いたときは、こんな曲も作れるのか…と驚いた。wowakaらしさが強く出た歌詞、打ち込みを多用しているという点でボカロ時代に近いと思いきや、7年間ヒトリエとしての活動を経たことによる確実な進化を感じる良曲。『HOWLS』は『IKI』で見せた多様性をそのまま昇華させたようなアルバムとなっていて、この曲はその象徴とも言えるだろう。HOWLS収録曲で同じくYouTubeに上がっている「」は、自分の過去の経験などを今まであまり曲にしたがらなかったwowakaが初めて書いた失恋の曲、という意味で昔との大きな変化を見せているのでそちらもお勧め。


まとめ

 いかがだっただろうか?最初におすすめしたのは『ルームシック・ガールズエスケープ/non-fiction four e.p.』だったが、個人的には自他ともに認める最高傑作、そしてwowakaのいるヒトリエとしては遺作となった最新アルバム『HOWLS』は絶対に外せないし、ここまでで紹介はできなかったがキラーチューン「アンチテーゼ・ジャンクガール」をはじめ全体的にまとまったイマジナリー・モノフェクションや、ヒトリエ初期の手探り感が味わえるWONDER and WONDER、ご存じ「アンノウン・マザーグース」が収録されているai/solateも素晴らしいアルバムとなっている。もし今まで聴いた中で気に入った曲があれば是非それが収録されているアルバムをフルで聴いてみてほしい。



 個人的なことも書こうと思ったけれど疲れたので手短に。お知らせ当日は曲聴いたりライブ映像見たりメンバーのコメント(特にイガラシさんの長文コメントは本当に見ていて心にきた)だったりで5、6回は泣いたと思う。意外にもしっとりした曲よりも激しい曲の方がより生命力感じて、あぁもう死んじゃったんだという実感をより強く感じました。
 今後wowakaさんの曲を聴けないのは本当に残念だけど、今まで発表してきた沢山の曲をこれからも聴き続けながら、残されたヒトリエメンバーのこれからに期待したいと思います。(全員楽器がとても上手いので解散してもやって行けるとは思うけど、個人的には希望半分予想半分でこれからもヒトリエを続けていくと思います。完全に別物になってしまうという意見はもちろん沢山あるだろうけど、シノダさんは今すぐにでもフロントマンになれると思うし。ただwowakaさんが亡くなった後のそれぞれの反応を見るにリーダーはイガラシさんみたいな感じになるのかな?)

 

 最後に、HOWLSのラストトラック、ウィンドミルの歌詞の最後の部分を添えて終わりたいと思います。

 愛すべきもの探してんだ
 止まってなんかいられないんだ
 無我夢中の毎日をやって
 夢見心地の孤独を超えんだ
 何もかもをこの一瞬に
 集めて弾き飛ばしていつか
 必ず終わってくこの命でさえも
 このまま超えてゆけ

 

 心よりご冥福をお祈りします。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?