この歌よ、届けっ!~第一章 第二話~背中の傷

↑一話


身体を洗っていると、背中に違和感を感じた。
いつもはどうでもいいで済ましていたのに、少し気になってしまったのだ。
自分を知る、いい機会だと思って。

鏡で自分の背中を映してみる。
よくわからない傷跡が出来ていた。
大分昔のやつだと思う。
湯船に浸かっていると、何かの記憶のピースが出て来た。


「エレは可愛いね~」
「声可愛いよ、私の、私達の大事なエレ」

「エレ。空下はね、私達の────」

違う、違う、こんなのじゃない。
こんなの私じゃない。誰なの?これは。


記憶が流れ出てくる。何が起こっているのか、全くわからない。
けど、

一つ目はお姉さんが可愛がってくれてる。
二つ目は女の人が説明している。
三つ目は私の昔の思い。

だという事は分かった。

その途端、気分が悪くなった。
私はお風呂を出て、服を着て、その場に座り込んだ。

ケータイに連絡が来た。
ケータイに手を伸ばして、連絡を見てみると、

しんどー06《二宮さん、お風呂入ったちゃダメ!》
     《お~い》
     《待って、もう入っちゃった?》
     《ちょっと待って、入ったの?》

《もう上がったよ》エレ

しんどー06《えっ、ちょっと待って電話させて。いい?》

《うん。わかった、いいよ。そっちからかけてきてくれたら出るね!》エレ

電話がかかって来た。

え、ビデオ通話?
まぁ良いけど。

私は暑いから風通しの良いベランダに移動した。

この人は、信用できる人だと、私の勘が告げていた。

””もしもし二宮さん?””

「はい」

反射で答えたが、声を出してしまった。
どうしようと私は身構えるが、すぐに神堂がそんな私をどうしようとする状態ではないことがわかった。

「え、外に居るの?」

自転車を漕いでいた。
外の天気は晴れなのに、あっちでは雨。
どういうこと?

””うん。後、家から出ないでね!””

え?
今、ベランダに居るんだけど、、、
ビデオ通話で私の様子を確認した神堂は

””言ってる傍から!もういいよ、すぐ迎えに行く””

迎えに行く?どういうこと?

神堂のビデオが切れた。
ざわざわと、嫌な予感がする。

「神堂くん?ねぇ、神堂くんってば!」

話しかけるが、応答なし。
一気に心細くなった。

「よっ!」

ケータイから出たわけじゃない、リアルの神堂の声がした。

けどここは2階だし、、、まさかね。

私は少しだけ、前を向いた。
そこには、浮いている神堂の姿があった。

「……」

驚きのあまり沈黙してしまった私に、神堂は

「これ、おれの力で浮いてるんじゃないよ!こっち!」

と言って箒を見せてみせた。

「……うん。」

箒を見せるために持ってるから、実質下には何もないんだよね?浮いてるの誤魔化さないでいいから。

「絶対納得のうんじゃないよね?」

「うん」

躊躇いもなくそうキッパリと言った私に、神堂はひどく落ち込んだような顔をした。
すぐに吹っ切れたようにこう言ったが。

「部屋入ってよき?」

よきとはなんだ、よきとは。

「まぁいいが。」

心底どうでもいい。

神堂がベランダを飛び越え、私の部屋に入ってきた。

「お邪魔しまーす」

意外と礼儀正しいんだな。

「で、なんのよう?」

家から出ないでとか。

「お前、ほんとに何も知らないんだな、、、まぁそれもそうか」

呆れたように神堂。
私はその態度にイラッとした。
どうでもいいけど。どうでもいいけど!

「いや、体験した方が早いだろ。」

神堂は私をお姫様抱っこし、外へ飛んでいった。

「えっ、ちょ、飛んでる!」

怖い怖い怖い怖い!落ちる!

地面の直前、体がフワッと浮き上がり、ゆっくりと地面に着地した。
荒々しい空中運転無免許運転が終わり、ホッとした。

「だいじょうぶそ?」

心配そうに神堂。

「なわけ。初めて飛んでる人見てその途端飛ぶとか思う奴いるか普通!?」

私は今年一番の────と言っても今年始まったばかりだけど、今年一番驚いた事№1だろう。

神堂は笑って、またお姫様抱っこをして飛んだ。

「後ちょっと我慢してね、二宮さん」

ひあぃぃぃぃ。
二回目でも怖いぃぃぃぃぃ。

怯えている私を見て神堂は笑った。

「にゃに?にゃんかわあひおかひいこちょひちゃ?」

何?なんか私おかしいことした?
と言ったつもりだったが、空を飛んでいる怖さで、ふにゃふにゃな言葉で喋ってしまった。

神堂はまた、今度はもっと大きな声で笑った。

「無理に喋ると舌噛むから気をつけろ」

確かにそうだ。
さっきみたく勢いよく落とされたらの話だが。

「あんなにしぃぃんぴゃいしゃれるしゅじあいひゃにゃいきゃりゃ!」

あんたに心配される筋合いはないから!
そう言いたくなったが、またも上手く言えなかった。

また神堂は笑う。
神堂の笑い声が、空に響いたのだった。

↓次話



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?