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虎に翼 第124回 心の中に住まわせた人

新潟に赴任していた時に寅子が出会った美佐江にそっくりの少女。名前は並木美雪。駅の階段から同級生男子を突き落とした件で補導され、音羽綾子が調査を担当している。「いつもしっかりした報告書をありがとう」と音羽に礼を言う寅子。調査官への負担が大きすぎるという指摘に「自分が楽したいわけではない」と、きちんとした意見を言った音羽であるから、継続して正直な意見を聞きたいということもあるのだろう。

自分がすべて正しいとは思っていません。佐田さんの守りたいものの貴さもわかっています。ですので少々出過ぎた発言でした。

音羽綾子から佐田寅子へ

これに寅子は「はて?」と。「すべて正しくなきゃ声をあげてはいけないの? 声を受けてどうするかは私の問題よ。萎縮せずに思ったことを言ってくれてありがとう」と諭す。うん、いい上司だね。そして「寅子は美雪を不処分としました」とナレーション。

場面転換。山田轟事務所で、依頼人を見送る二人と美位子。
自分の裁判のゆくえを気にする美位子を見守りながら、ふと、よねが眉をひそめる。これ、初見ではスルーしてしまったけれど、この回の最後でよねが美位子に話すことばの伏線であった。「焦るだろうが辛抱してくれ(いつまででもここにいればいい)」とよねたちが言う。

違うんです。あたし、ここが落ち着くんです。
いつまでここにいられるのかなあ、って。だって、ここにいたら……

美位子とのやりとり

何か別のことを言うつもりだったらしい美位子は少し言いよどんでから「ここが居心地がいいってことです」と笑みを浮かべる。

そして場面転換。司法試験には受かったものの、司法修習を受ける気はない(=弁護士として活動する気はない)という凉子さま。ではなぜ司法試験を受けたんだ、と詰めよるよね。

強いて言うなら世の中への私なりの「股間の蹴り上げ方」かしら。わたくしをすぐに可哀そうで不幸な存在に落とし込もうとする世の中に。
弁護士になれなかったんじゃない、ならなかった。このさき弁護士になるもならないもすべて私の手の中にある。せめてそうしたかったの。

桜川凉子

「新潟にお店を構えてからいつも心によねさんを住まわせて生きておりましたのよ。弱音を吐きそうになるといつも心のよねさんが叱咤してくださるの」おお、心のよねさん! 見ている視聴者全員が笑顔になった瞬間だったのではなかろうか。

そして星家から朝帰りしたよねが美位子に言う。

美位子、おまえがここにいたいのなら最高裁への上告が棄却されてもいればいい。ただそれが、あたしたちの元に来る依頼人の話を盗み聞きするためならやめろ。人を見て安堵したり自分の身に起きたことと比較することはやめろ。何か抱えているやつはどっかしら生きるためにムリしてる。どうってことないふりしてごまかさないとやっていけないことがある。あたしは、

よねから美位子へ

「たった一度でもあの夜のことが耐えられなくなりそうなときがあった」と、姉が女郎屋の女将(だったか)にだまし取られたお金を取りもどすため弁護士に依頼し、弁護料が払えないなら一晩おまえを好きにさせろと言われていいなりになった過去を噛みしめる。次に言う「はらわたが煮えくり返りそうなほどクソだ」というのは自分の過去と少し重ねながらの言葉でもある。

お前の身に起きたことは腸が煮えくり返りそうなほどクソだ。クソが詰まっている。でもそれはお前の父親がこの世界が法律がどうしようもなくクソなだけだ。お前が可哀そうなわけでも不幸で弱いわけでもけしてない。それだけは、わかってくれ

よねから美位子へ

「ここは居心地がいいから」と言った美位子によねが言いたかったことはこれだったんだよね。ただ、どう話せばいいか、伝え方が腑に落ちたのは寅子の家で凉子さまと話したおかげ。いたぶられてズタズタになったとしても、それを「可哀そうで不幸な存在に落とし込もうとする世間」に搾取されたり負けて弱者として扱われ続ける必要はないのだ。

あの世にいった多岐川のことを家裁時代の仲間は「いつも心にタッキーを」「会いたいね」と言うけれど、女子部の仲間たちは「心によねさんを住まわせていましたのよ」と本人の前で言う。「直接会いにくればいい」と仏頂面で言うよねさんに、あら、会いに行っていいのね、と。

そうだね、心の中に住まわせた人に、生きてるうちに何度でも会えるなら、それはそれでとても幸せなことだ。

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