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毎月24日「プチの日」にちなんだ超短編小説

「24日はプチの日だって」
「へえ」
へえって。もっと他に言うことないの?いや、めげるなわたし、会話を続けよう。
「プチが24種類あることにちなんで、毎月24日をプチの日にしたらしいよ」
「そうなんだ」

 会話が広がらない。わたしが何を言っても、ふうん、へえ、そうなんだ。
会話を広げようとする意志すら感じない。一方的に頑張ってしゃべっている自分が虚しくなる。せっかくの放課後デートなのにぜんぜん楽しくない。
 
 わたしから好きになったのだし、付き合ってくれているのかもしれないけれど、なんでわたしだけこんなに頑張らなければならないのか。
 
 片思いして一人で盛り上がっていた時の方が楽しかったなあ。告白してオッケーもらった瞬間が一番ピークだった。そこから気持ちは下がるばかり。
 
 二人だとぜんぜん会話が弾まない。思っていたのとぜんぜん違う。付き合う前に想像していた、ドキドキするような展開もまったくなし。会話しなくても一緒にいられるだけで楽しいなんて思えない。何にも楽しくない。苦痛なだけ。
 
 学校の近くの公園のベンチに二人腰かけて、手持ち無沙汰な時間が流れていく。家に帰ってゲームしたい。いやもう少し頑張ろう、自分を奮い立たせる。

 何とか間をもたせるために、一緒に食べようとプチのラングドシャを鞄から取り出す。

「おいしいね」「うん」
「わたしプチの中でこれが一番好き」「そっか」
「全種類食べたことないけど」無言
「何が好き?」「えっと…」沈黙。
「全種類食べたことある?」「ない」
「24種類全部ならんでいるところお店で見たことないなあ」「そうだね」

 相槌を打ちながら機械的にプチを口に運んで咀嚼する彼。どんどんなくなるわたしのプチ。最後の一個も無造作に口に放り込まれる。


「え、もう別れたの」

 次の日の放課後。教室で友達に報告したら驚かれた。
 それもそうだ。彼女は一番近くで、わたしが彼に恋して浮かれているところを見てきた。あっという間に冷めたことに自分だってびっくりしている。友達だってびっくりだろう。

「会話が続かないのは、あっちも緊張していたからじゃないかな」

 わたしもそうかな、とは思った。でもわたしだって余裕ない。人の緊張をほぐしてあげるほどの力量はない。そこは自分で頑張ってなんとかして欲しい。こっちだって自分でなんとかしようと頑張ったのだから。なんでもかんでもこっちに背おわせないで欲しい。
 
 緊張していたのか、なんとなくオッケーしただけで乗り気じゃないのか、オッケーしたものの面倒くさくなったのか。本当のところは分からないけれど、人間関係はお互いの努力で築き上げていくものだ。片方だけ頑張っても無理が生じる。

 こうして友達とプチ食べながら話している方が何倍も楽しい。
 プチが最後の一つになった。あんたが持ってきてくれたんだから、あんたが食べなよと友達が言う。そうだよね。普通そう言うよね。ちょっとした気遣いが人間関係を築いていくんだ。
 
 会話が続かないことより。わたしが持ってきたプチなのに。わたしはこれが一番好きだと言っているのに、最後の一つを食べてしまうなんて。
 その瞬間、わたしの恋心は跡形もなく消え去ったのだ。


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