ラ・フォル・ジュルネ2023(2)
4年ぶりに開催されたクラシックのお祭りJFJへ。着物を汗だくにしながら歩き回り、久しぶりの友人にも会えて楽しかった。
記録のために、私のベスト3。
3.丸ビル無料コンサートで聴いた、赤松林太郎さん。ベートーヴェンとその周辺の作曲家を紹介しつつ、今の時代に力強く繋げているプログラムが素晴らしかった。直近に弾き込んでいたのだろう「クライスレリアーナ」は、後ろの新緑の景色と合間って、スピーカーを通しているのに感動的だった。ピティナレポーター特権でちょっとインタビューもさせて頂いた。(コメント欄)どさくさ紛れにアマチュアピアノ仲間、女神の話なども。
2.前橋汀子さんのヴァイオリン。御歳79歳の堂々たる振る舞いも容姿も、大女優の貫禄。美しく"おきゃん"なお嬢さんが、戦後にヴァイオリニストとして成功するための奮闘の日々、名が知れるようになってからのたくさんの出会いと豊かな経験。そうしたものを全て詰め込んだような圧巻の演奏。そして松本和将さんのピアノの名人芸。アンサンブルの冒頭によくある、調弦→お互いの「準備はいいですか?」→「ではっ」というあの時間が全く無く、社交ダンスで手を組んだらすぐにステップが始まるように、間髪入れず音楽が滑り出した。舞台袖からずっと演奏が続いていた感じ。全体に演奏というよりダンスに近く、実に優雅だった。
1.エルバシャさんの諸々。テンペスト、ワルトシュタインはもちろん、最終日の「皇帝」は間違いなく、録音して売り出した方がよいくらいの歴史的名演だっただろう。しかし私の心はどこか乗り切れなかった。会場で今感動しているであろう、たくさんの人々が羨ましい。
なんということでしょう・・。
腑に落ちない気持ちで、私にとっての最終講演である林英哲さんの和太鼓に向う。抽選で取れた席は音的も視覚的にも最高の席だった。
どうしてなのだろう。と、林英哲さん71歳のセクシーな筋肉を眺めつつ、考える。どうせ背中出してくれるんだったら、褌でお尻も見せてくれたらいいのにな・・。疲れのためつい、下世話になってしまう。
隅々まで深く曲を解釈し、上質でエレガントなエルバシャさんの音楽は健在だった。ただ、4年前だったら、もっと粒揃いで容赦のない、怖いほどの正確無比さがあったのではないか。そして意図とかテクニックとは別の、もぎたてのフルーツのような生命力が漲っていた。4年前のあの頃、限定的な意味ではあるが最高潮の時代を見せてもらっていたのかも知れない。
ドコドコドコドコ鳴る太鼓に身を任せつつ、LFJが開催できなかったこの3年間を思う。
今回の来日では以前の体型に戻っていたが、フランスでお会いした時、エルバシャさんはちょっとふっくらし、パンツのサイズを直した形跡があった。ヨーロッパでも演奏活動の空白時間はあったのだろう。
太鼓の合間に、江口玲さんの「月光」が演奏される。安定の演奏だが、あなたのお弟子さんの鶴原壮一郎くんのハチャメチャな「月光」の方が数倍良かったよ。。と思う。
そう、私は昨年、ピティナのレポーターで、若い世代の演奏をたくさん聴き、指揮者合わせを見せて頂いたりと、それまでにない経験をさせてもらった。フランスに行ったことも含め、コロナ禍としては充実した音楽体験だったと思う。
ステージ上では筋肉体操みたいな人たちまで出てきてフェロモンを振りまいてくれる。いいぞいいぞ。
エルバシャさん音楽の魅力が、現役バリバリの時代から少しずつ熟年の域に差し掛かるとともに、私の音楽体験が進んで、感覚だけでなく、もうちょっと勉強した方が楽しめるよ、という領域に差し掛かっている、という両方の要因があるのだろうと分析した。
しかし我ながら、新次元の悩みに突入してしまった。追っかけを続けるとこんなことになる場合もあるのか・・。親切な友人達に貰えそうなアドバイスがいとも容易く想像できるが、ちっとも役立たなさそう。
そうするうち太鼓はもうクライマックスだ。筋肉達が第九を歌い始めた。これでもかこれでもかと波状に押し寄せるエネルギーが、小さな悩みや理屈など吹き飛ばしてくれるようだ。
たった今砲弾が飛んでくる国に比べれば日本は本当に恵まれているが、コロナが明けたと言っても世界には暗雲が立ち込めている。それでも人には良い方に向かおうとするエネルギーがある。私にもまだできることはある。
最後の一打とともに客席は歓声に包まれ、私も立ち上がった。有難う!有難う英哲!見えるかしら、これがうちにある一番高い着物よ!ビバ筋肉ッ!
ということで今年のベストは林英哲さんと風雲の会の筋肉。じゃなくて太鼓でした。