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特級公式レポート:3次予選第三グループ

さて、あっという間に最終グループです。

7.藤澤 亜里紗さん

個人的に、二次予選のプログラムが一番好みだった藤原さん。矢代秋雄のソナタがじっくり聴けたのが嬉しかったです。フランスの作曲家が大好き!という気持ちをぶらさず、3次予選でも、ラヴェル:ピアノ協奏曲から第一楽章・第三楽章を、江夏真理奈先生と演奏されました。

藤澤 亜里紗さん

全体の構成は、奇を衒うことなく楽譜に忠実に。その安定した枠の中で色彩や手触りといった要素を丁寧に作り込んでいきます。そうすることで精緻なラヴェル の特性がかえってくっきりするという、フランスものを得意とする藤澤さんならではの曲作りだと感じました。綱渡りのドキドキを楽しむような第三楽章も、スピードはあるのに不思議と落ち着いて聴こえます。作り込まれた細かな要素に目を凝らすように、楽しむことができました。

8.神宮司 悠翔さん

2次予選で、情景がくっきり浮かぶような夜のガスパールを演奏された神宮司さん。この人なんです。私が1次予選の動画に、「素敵なデートに連れて行ってくれそう」という勝手な印象を抱いた方(迷惑・・)。表現の端々に、一歩踏み込んだプラスアルファの独自性を持たせてくれるのです。それがさりげなく上品で、かつ紳士的・・と感じて、そんな感想に至ったのでした。
本日は梅村知世先生と、チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23から第一楽章を演奏されました。

神宮司 悠翔さん

神宮司さんはこの曲を弾き慣れていて、もうすっかり自分のものにしているように感じました。今、この瞬間に生まれてくる感覚に合わせて、音楽を表現しているようです。梅村先生も、伴奏と言うよりもひとつのパートとして、時に音を闘わせるようにぶつけ合いながら、この壮大な曲を一緒に作りあげていきます。ふたりともコンクールであることさえ忘れ、二度と来ない音楽体験を共有しているように見えました。

9. 今井 梨緒さん

ショスタコービッチの、デォルメされた図形のような音形を「こんな面白さがあるよ!」と教えてくれるような二次予選の演奏が記憶に新しい、今井梨緒さん。恩田佳奈先生の伴奏で、ショパン:ピアノ協奏曲 第2番 ヘ短調 Op.21より第一楽章です。

今井 梨緒さん

誰に聴かせるわけでもなく部屋でひとり歌っているのに、いつの間にかずっと遠くまで伝わっていく歌声のようなメロディーライン。ショパンがこの曲に込めた想いを辿っていくようです。そのメロディーを、恩田先生がオケパートで効果的に彩っていきます。自身の個性を全面に出すことよりもショパンの想いを紡ぐことに忠実であろうとする、今井さんの誠実な姿勢を感じました。

10.北村 明日人さん

ラストを飾るのは、2次予選で「私の思うブラームス本人やがな・・」という演奏をされていた、北村明日人さん。昔友人の家にあった、たっぷりとした髭を蓄えたブラームスが、ゆったりと腕全体を使ってピアノを弾いている肖像画を思い出しました。今日はベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Op.58を江夏真理奈先生と演奏されました。今日は4回伴奏をされている、江夏先生の気力と体力にも頭が下がります。

北村 明日人さん

ひとつめの和音で、一気にベートーヴェンの世界へ。モーツァルトともショパンとも違う、ベートーヴェン特有の光の世界です。抜群の安定感と芯のある音色。ヨーロッパの大きな教会を思わせる、構造のしっかりした曲作り。そして自然に沸き起こってくる、演奏することの喜びが、直に伝わって来るようでした。聴き終わる頃には、日常で乱れた心がすっかり浄化されたよう。そのまま、二楽章が聴きたい・・。


さて、以上で全ての演奏が終わりました。演奏者はもちろん、公式伴奏者の先生、精度高くオンライン配信をしてくださったスタッフさんもお疲れ様でした。個人的には、譜めくりの方・・。ラヴェル の協奏曲では鞭の代わりに手を叩く場面もあり、大変な重役だったと思います。色々な方がコンクールを支えていることに感動しました。


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(画像提供:ピティナ)