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最終コーナーに向かって(4)鶴原壮一郎さん

3次予選、2台ピアノでのラヴェルのピアノ協奏曲では、出だしのグリッサンドだけで私の心を掴み、セミファイナルでの挑戦的なモーツァルト ピアノソナタ第8番とニヒルなプロコフィエフ「風刺(サルカズム)」に度肝を抜かされた鶴原さん。

指揮者との合わせの日、ファイナルの曲であるラヴェル ピアノ協奏曲の3楽章を、イメージ通りの速さで弾くことに迷いがあったようでした。(当日の様子はこちらから)私は「あんな挑戦的なモーツァルトを弾いた人が、そんな心配をするの!?」と内心驚きながらその様子を拝見していました。これまでの演奏から、周囲の意見など気にせず、自分の表現を突き通す人なのでは、という勝手なイメージがあったのです。飯森先生は、ご自身の過去のコンクールでの経験などを踏まえて、自分の音楽を表現することの重要性を伝えていました。

その後鶴原さんにインタビューをさせていただいたのですが、かなり時間をかけて、自分の感覚にぴったり合う言葉を探すように応えてくださいました(インタビュー内容はこちらから)。どんな時にも自分自身の感覚や、目の前の相手に対して誠実であろうとする姿勢が、音楽にも表れているのかな、と感じました。

オーケストラとの合わせの日、鶴原さんの響きは、ややオーケストラに押されているように感じました。朝一番のピアノの状態のせいもあったのかも知れません。鶴原さんご本人も、当日のインタビューで「オケに圧倒されて自分のやりたいこととか出来てないような気がする」とおっしゃっていました(インタビュー内容はこちらから)。

当日リハーサルでの鶴原さん

そして翌日の本番では、あの印象的なグリッサンドに始まり、見事に鶴原さんらしいラヴェルとなっていました。ジャズのような響きを時折織り交ぜながら、時に優しく、時に聴く人を挑発するような音楽づくり。この一晩で、イメージと響きを膨らませ、ベストを尽くして今日を迎えたことが伝わってきました。

終了後のインタビューでは、「今日のラヴェルの協奏曲は、取り組み初めてから2か月くらいでした。でも思ったことは全部できたと思います。こうしてたくさんインタビューを受けることも初めてだったけれど、それも含めて勉強になりました」と明るく話してくれました。

カーテンコールに向かう鶴原さん

終わりに

この4日間、ファイナリスト達が持てる能力を総結集して最終コーナーを回り、ゴールテープを切るまでを見させていただきました。

プロになっていく人たちは、こういう道を通るのか、一日でこんなに変わるのかと感動し、大きな力をもらいました。そしてついには応援を超えて、いつしか脳内で親戚のおばちゃんになりました。

表彰式の後、全員にお話を聞かせてもらいましたが、結果を残念に感じていたコンテスタントもいるでしょうから、どうしてもカメラを向けられなくて、お一人お一人のお写真はありません。

私にとっても忘れられない4日間となりました。ファイナリストに残った4人だけでなく、動画審査からこれまで、素晴らしい演奏を聴かせてくれたみなさんのことを、ずっと応援し続けていきたいと思います。

とても仲良しだったファイナリストたち(撮影:山平昌子)

(写真提供:ピティナ/カメラマン:石田宗一郎・永田大祐)