最終コーナーに向かって(2)神宮司悠翔さん
誰にも真似できないような、なめらかで透明感のある音と、細部まで練りこまれた曲作りに、毎度感嘆する神宮司悠翔さんの演奏。セミファイナルでのシューマン「交響的練習曲」やバラキレフ「イスラメイ」は、「今・・私は歴史的な名演を聴いているのかもしれない・・」と呆然としながら聴きました。
実はオーケストラとのリハーサルの日、私の目にはこれまでより少し、神宮司さんの元気がないように見えました。そう思うと、ピアノの音も心なしか、セミファイナルの日より精細を欠いているように感じます。もしそうだったとしても、この怒涛の日々を思えば無理もないことでしょう。でもどうか後一日、乗り切って欲しい、と心の中でエールを送りました。コンクールは体力勝負であることを痛感しました。
当日午前中の、サントリーホールでのソロリハーサルの時、もう曲を通すことをせず、ゆっくりと音を確かめるように弾いていらっしゃったそうです。体力を温存し、イメージを練ることに時間を使ったのただろうか、というのは勘ぐりすぎでしょうか。
そして迎えた本番。森永さんと同じチャイコフスキーピアノ協奏曲 第一番は、温存しておいたエネルギーを爆発させるような、素晴らしいものでした。リハーサル時とはかなりスピード感も表現も違うように思いましたが、指揮者合わせの日、「どんなスピードで弾いてくれても、ついていく自信がある。君の好きなように弾いてかまわない」とおっしゃった飯森先生のお言葉の通り、オーケストラは神宮司さんの表現に応えているように感じました。短い期間の間に、飯森先生との信頼感が出来上がっていたのだと思います。神宮司さんのクリスタルのような音がサントリーホールいっぱいに響き渡り、これから先、もっともっと伸びていく可能性までも感じる演奏でした。
終了後のインタビューでは、「思うように弾けなかったところもあったけれど、精一杯やりました。今回学んだことを活かして、次につなげていきたいと思います」と、しっかりと語ってくださいました。
(写真提供:ピティナ/カメラマン:石田宗一郎・永田大祐)