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最終コーナーに向かって(3)北村明日人さん

今年のファイナリストの中では最年長の北村さん。ドイツ音楽を愛し、留学先のスイスでしっかりとした経験を積んできた北村さんは、一貫して安定の演奏をされてきました。ピアノの前の北村さんはとても大きく、重厚な存在感を発揮されます。しかし指揮者合わせの日、実際にお会いすると、想像していたような大きな体でないことや、演奏時とは全く印象の違う無邪気な笑顔を見せてくれ、ステージ上の印象とのギャップに驚きました。

オーケストラとの合わせの日、北村さんは自分の愛するベートーヴェンを弾けることの喜びが溢れているようで、レポーターの私にも元気に挨拶をしてくれました。飯森マエストロにとっても、ベートーヴェンは思い入れのある曲。ピアノとの合わせよりも、オーケストラの指導に割く時間が一番多かったようです。

通りすがりに、北村さんがステージマネージャーとお話しているのが聴こえました。「いよいよ明日だね」「ええ、楽しみです!」その瞬間、北村さんのお顔が、ぱっと光が灯ったように輝きました。

ファイナル当日、ホールの響きを確かめる北村さん

当日、北村さんのベートーヴェンピアノ協奏曲 第四番は、ピアノとオーケストラを合わせるというアプローチを超え、オーケストラ全体の音楽の中に、たまたま自分がピアノという楽器を演奏している、という大局的な視点を感じました。
雄大な音楽の構造をしっかりととらえ、伝統的で真っ当なベートーヴェンを、新鮮な驚きとともに提示してくれました。これまでのプログラムはこの協奏曲のための序章だったのかと、改めて1次予選からセミファイナルまでのプログラムを思い出しながら聴きました。

表彰式後のインタビューでも、「今ここでこういう音が来て欲しい、という時に欲しい音をくれるオーケストラでした」とお話されていて、オーケストラに対して明確なイメージがあったことが伝わってきました。

ドイツ音楽への愛、そしてこれまでのオーケストラとの豊富な経験が、グランプリという結果につながったのだと思います。

本番直前の一枚


(写真提供:ピティナ/カメラマン:石田宗一郎・永田大祐)