頸椎の評価の流れ

今回は私が実践している運動器徒手療法(マニュアルセラピー)による頸椎の評価法の流れについてKEOMT(Kaltenborn-Evjenth Orthopaedic Manual Therapy)の方法を中心としてお話ししたいと思います。

💡マニュアルセラピーの適応
私たちがマニュアルセラピーを実践する上で留意しなければならないことは、患者さんの訴える『症状』と機能評価の所見である『徴候』との間に関係性が認められる場合には効果が期待できますが、関係性が認められない場合には適応外の可能性があるということです。例えば心理社会的な影響が強い場合や内臓由来の疼痛などでは特定の姿勢や動作によるメカニカルストレスとは無関係に症状が生じるため、マニュアルセラピーの効果はあまり期待できないかもしれません。そのため問診や視診の結果、運動器疾患なのか?マニュアルセラピーの適応か不適応か?問題となる組織は筋、関節、神経のうち何なのか?損傷に結び付く要因は何か?などある程度の仮説を立て、それらを検証するために『機能評価の手順』に従いすすめていくことが重要となります。

💡評価の流れ
頸椎の評価は、Ⅰ『個人的情報』Ⅱ『主観的所見』で得られた情報をもとに仮説をたて、検証する作業をⅢ『客観的所見』すなわち徒手的な検査や医学的検査により行います。その結果、Ⅳ『結論』として痛みの原因組織や機能障害を特定し、Ⅴ『治療計画の立案』というのが基本的な流れとなります。

Ⅰ 個人的情報について
これは患者の生活習慣や環境因子などの損傷に結び付く要因について重要なヒントを与えてくれます。そのため悪しき習慣や環境を修正する上で必要不可欠な情報になるかもしれません。

Ⅱ 主観的所見について
患者の主訴についてどのような症状が、どこに、いつからなど最も基本となる症状の特徴をボディーチャートに記入していきます。次に現病歴について問診を行い、症状の特徴を更に詳しく調べていきます

Ⅲ 客観的所見について
視診では、機能障害と姿勢との因果関係について仮説を立てることが重要です。例えば頭部前方偏移姿勢(Forward Head Posture:以下FHP)になるとUpper Crossed Syndromeと呼ばれるMuscle Imbalance(Tight:胸筋群、後頭下筋群、僧帽筋上部線維、肩甲挙筋/Weak:椎前筋、菱形筋、僧帽筋下部線維)を生じます。さらにこの姿勢は環椎後頭関節の過伸展をもたらすことで開口位となり、下顎の後方変位や舌骨の下方変位を生じます。そのため咬合パターンの変化による顎関節症や異常な嚥下パターン(喉頭挙上機能低下による誤嚥)に繋がります。また仕事上事務作業などで下を向いている時間の長い人では、頸部の伸展筋群が慢性的に過緊張となります。頭部がまっすぐに保持されている場合、この姿勢を保持するのに必要な頭部と頸部の伸筋の収縮力は25Nですが、30°屈曲位では75Nに増加します。椎間板への圧縮力は重力と伸筋の力の和とされることから頭部が屈曲した肢位をとればとるほど重力の影響を受け伸筋や椎間板など頸椎の構造への負担が増すことになります。
問診によりめまいや吐き気、頭痛などの症状が確認された場合、あるいは交通事故やリウマチなどの既往がある場合などには上位頸椎の靭帯損傷や椎骨動脈の血流障害などのマニュアルセラピーが禁忌となるような病態が存在しないかどうか『安全性の確認テスト(Security test)』を行います。特に問題がなければ機能評価へと進めていくことができます。また『神経系』の症状が疑われる場合については関節や筋よりも先に評価・治療を行います。もし神経系がセンシティブな状態であれば、関節や筋肉に対する評価や治療手技により神経系を更に悪化させることになりかねないため、神経症状を落ち着かせることを優先します。『自動運動』で症状が確認された場合、『症状の局在化テスト』により痛みの発生源となる分節を特定する評価行います。次の工程である『他動運動テスト』は頸椎を分節ごとに動かし可動性がhypermobility(過可動性)なのかhypomobility(過少可動性)なのか調べていきます。そして軟部組織の評価へとすすみ、更に必要に応じて『補助的なテスト(整形外科テスト)』を行い、最終的に画像診断などの医学的所見とともに総合的に判断し『Ⅳ結論』に至ります。

Ⅳ 結論、評価のまとめ
以上の評価を終えた段階で、陽性所見を中心にまとめを行います。

①     姿勢や動作によりどこに疼痛を生じるのか?
②     神経学的徴候
③     頸椎分節の特定
④     問題の分節および関節はhyperかhypoか?
⑤     直接関係していると考えられる組織は?
⑥     損傷に結び付く要因や治癒を妨げている要因など悪影響を与えている因子
⑦     試験治療の結果

Ⅴ 治療方針
評価のまとめができましたら機能障害の内容に従って組織の滑走性や柔軟性を促す軟部組織/関節/神経系などのモビライゼーションテクニックやhypermobilityを呈す関節に対し安定化を促す深部筋のトレーングなどを適宜用いていきます。

💡まとめ
頸椎の基本的な評価の流れは以上となりますが、頸椎周辺には頚髄、脳幹、椎骨動脈など解剖学的に重要な構造物が存在するため特に安全性を考慮した上でアプローチしていく必要があります。またマニュアルセラピーによる詳細な徒手的評価は画像診断ではわからない椎間板や椎間関節の機能異常を導き出す有効な手段となりますので身につけておきたいテクニックだと思います。

<参考文献>
・KEOMT研修会資料



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