本と私、調律を合わせて
私は普段、気分に合わせて装いを変えるなどということはしない。
明るい気分になりたいから明るい色を纏おう、なんてことができるほど、ファッションに明るくない。
でも、私は昔から気分に合わせて本を選ぶ。
今の体調、心の調子にぴったり合う、文体、雰囲気、世界観、読み味を探す。
私にはずっと読みたい本があった。
それは重厚な世界観のSFで、私の好きな作家の、友達が死ぬほどオススメしていた、どうやっても面白いことが確定している作品。
しかし、その本と調律を合わせられる時がこない。
読み始めてみても、その世界観を飲み込むための文字が、どんどん流れて、滑っていく。
私はいつかそんな気分の時がくればと、
毎日会社にその本を持ち運び、
今日も調律が合わせられずに、
無駄な往復を繰り返している。
ただ疲弊していて、娯楽を消費する体力が減ってきたという、ありふれた話ではある。
もしくは。
編集者として自分の好みでもない作品もたくさん口に押し込んで無理矢理胃を満たす日々の中で、
「面白い」に、「夢中」に出会える打率が確実に下がってしまった日々の中で、
本当に私の好きなものは、
面白いと思えるものは、
ちゃんと最高の状態で楽しみたいのだという、
贅沢な文句なのかもしれない。
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