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小説集・詩集

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物書きとしての「私」の拙作たち
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習作短歌連作『彦星のしびれ』

最近『推し短歌入門』という本を読みまして、 すごく面白かったのでせっかくならと初めて短歌を詠んでみました。 短歌の作り方を学ぶことによって、 短歌の読み方の解像度が上がるような感覚になったのがものすごく良かったです。 短歌ってそれまで、なんとなく「消費も生産もハードルが低いもの」だと思っていたけれど、実は絵画のように一定の割合の人にとっては「注釈」がないとうまく楽しみ方が分からないもの、なのかもしれないと思いなおしました。というか、自分も短歌の楽しみ方を本当は分かってなかっ

習作詩集『ワタシプリズム』

色々な私を習得した末に 真っ白な光になって 誰の目にも見えなくなった 何者か?何色か? 夢を叶えてドミネーター 読めない私にみな必死に配る 優しそうの肌色 、そうなんだ? 私というNovelを読み返す ああ、そういえばこんなキャラだった 私のふれるもの えらぶものすべてが ひどくおさなく まちがいにおもえる たにんのもつもの うらやましい のに たにんをあいせず うらがなしい 幼さを隠したいという幼さが 私の口を閉ざしている 8年前に別れたあの人の誕生日は忘れな

掌編『活性化エネルギー』

 その手をもう、私は知りすぎた。  彼は私の身体をゆっくり撫でながら、首筋を舐める。唾液が乾いたら臭うなと思いながら、私は声を漏らした。  彼の手が胸からお腹を経由して徐々に下っていく。ごつごつした人差し指を咥えた私の身体がちゃんと湿っているのを確認して、彼は避妊具をつける。身体が覆い被さるにつれて、ミシミシと軋めく音がした。 照明を付けていない真っ暗闇の中でも、私たちの行為に障りはない。まるで組体操をするかのように、二人は滞りなく身体を動かす。もう2年だ。慣れ切った手順。

掌編『環七のラーメン』

「朝早く起きて浅草寺行ったよ」 「仲見世はもちろん閉まってたけど」 「でも人が少なくて良かった。今は外人も一杯だから」 「インスタで調べてカフェにも行ったの。モーニング」 環七通りの美味しいと評判の店に向かいながら、母親は言う。 もう五十代半ばというのに、そう見えないのは自分が母親の若い頃をよく見ていたからだろうか。それとも、今の姿をよく見ていないからだろうか。 「ようやくそういうの、一人でも楽しめるようになってきたなー」 「ていうか、一人でも楽しまないと損って気付いたん

海走列車

自由な大海に飛び出たつもりで 自分らしく振る舞ってみても 結局ここも線路の上 その事実に無意識に安堵していたの この太い太い線路から 外れるのがただ怖くて 下車したら溺れて沈んでしまいそう そんなはずないのに きっと色んな線路があって 海底に落ちる方が難しいほど 夥しい数の線路があって 人間はどうやったって社会に生かされていて それでもこの誰もが知ってる 太くて丈夫な線路の上で この誰もが知ってる電車に乗って その先にしか夢見た島はないと 思い

短篇『大阪エレジー』

 銀色の鉄の箱が通り過ぎていく。  無機質な駅のホームに立ち尽くす私の横を、暴力的な速さで。  地上の人々が豆粒に見える高層ビルの屋上も。どれだけ深いかも分からないほど濁った河川に掛かる橋も。  大阪みたいな都会に住んでいると、「死」という言葉が脳裏を過ぎるのは日常茶飯事だ。  特に梅田の人混みを歩くと、人が多すぎて皆ロボットみたいに見える。何百人もの人が、命を家に置いてきたみたいな目をして、規則正しい行進を続けて。その人いきれの中で足並みを揃える私も、自分の意思で足を動