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【解説】バッハ シンフォニア全15曲

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予め分析をしておかないと、演奏や指導をするのが難しいシンフォニア。 全15曲の解説ポイントを集約しました。 第9、10、12番には演奏を載せました。
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#解説

バッハ シンフォニア第1番【解説】 BWV787

バッハ シンフォニア第1番【解説】 BWV787

・音階の幅を広げることで、冒頭からインベンションとの難易度の差が明確になっている。
・主題の上行ラインは喜びに溢れた明るさを持つ。一方、掛留音(けいりゅうおん)を使用した下行ラインが美しく形成されている。
・旋法的な終止形が多く、完全終止形は最後に出てくるのみなので、曲中の段落形成が少し曖昧になっている。

主題から伺える難易度の高さインベンション第1番とシンフォニア第1番はどちらも同じハ長調で書

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バッハ シンフォニア第3番【解説】 BWV789

バッハ シンフォニア第3番【解説】 BWV789

主題と2つの対位主題が織りなすフーガ3声の習作。旋律が3声に渡って同時に流れている為、音価(音の長さ)を厳格に守り、注意深く音を聴く必要がある。また、3度や6度のハーモニーが魅せる、明るく美しい響きは印象的。躍動感をもつ音型にも注目。

三つの主題主題は冒頭の右手の部分、2小節半に渡る旋律です。

主題に続いて、対位旋律(=対旋律)が2つ出てきます。

赤色で示したものが主題、黄色が対位主題1、青

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バッハ シンフォニア第5番【解説】 BWV791

バッハ シンフォニア第5番【解説】 BWV791

琴線に触れるような美しい装飾音が施されたサラバンド風の楽曲。リュート伴奏にのせた、二本のヴァイオリン、またはフルートによるトリオでの演奏を想起させる作りをしている。フランス風序曲を思わせる装飾の美しさに隠れがちだが、4度下に現れる模倣(カノン)、転回(声部交換)等が駆使された労作。

カノンこの曲では模倣(カノン)が4度下、4度上、5度下、2度上に出てきます。

よく主題が出てきたら強調するように

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バッハ シンフォニア第6番【解説】 BWV792

バッハ シンフォニア第6番【解説】 BWV792

ホ長調の音階による主題は柔和な印象を受けるが、その背景に8分の9拍子のジグ調のリズムを持つ。ゼクエンツやヘミオラ(3拍子の曲で2小節をひとつにして大きな3拍子をつくること)を織り交ぜながらジグ特有のテンポ感をつくりだしている。

主題に続くヘミオラ主題と応答主題による、このような形で始まります。

その後、ヘミオラという二小節を三つに分けた拍節法が使われます。

分かりやすく色分けにしましたが、こ

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バッハ シンフォニア第7番【解説】 BWV793

バッハ シンフォニア第7番【解説】 BWV793

臨時記号による♯や♮を使って苦しみの音を表現している。イエスの苦しみを歌う、受難カンタータのような性格を持ち、最後はチェンバロ最高音のc音を減七の不協和音と共に響かせた後、ピカルディ終止(短調の曲が長調の和音で終わること)により、この上ない安らぎを感じさせる。

一つの主題と、変化し続ける対旋律この曲の主題は冒頭の以下の旋律です。

対して対旋律は左手のこの部分です。

青色で塗った箇所の中でも赤

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バッハ シンフォニア第11番【解説】 BWV797

バッハ シンフォニア第11番【解説】 BWV797

シチリアーノ舞曲風の8分の3拍子で書かれた軽やかな楽曲。掛留音による不協和音や、小節をまたぐ下降音階によって悲嘆的な性格を持つ。2部形式。(1~36小節・36小節~72小節)

掛留音掛留音(けいりゅうおん)とは、直前の小節からタイで繋がり残った音がその小節では倚音(いおん・和音と合わない音)になる音のことです。
黄色のマーカーで塗ってあるところが掛留音です。

この掛留音のおかけで、2度の不協和

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バッハ シンフォニア第12番【解説】 BWV798(演奏動画付き)

バッハ シンフォニア第12番【解説】 BWV798(演奏動画付き)

長めに響くスタッカートや、オルゲルプンクト(保属音)、最後に出てくるバスのソロによってオルガン的な要素が多くなっている。3声で書かれているが、実質4声を想定しているつくりが随所に表れている。イ長調のもつ明るい響きとリズムの躍動感によって喜びを表現。

オルガン的要素この曲には、オルガンを想わせる特徴が3つあります。
①8分音符と8分休符によるオルガン・スタッカート風の伴奏

②各終結句の前に出てく

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バッハ シンフォニア第15番【解説】 BWV801

バッハ シンフォニア第15番【解説】 BWV801

Bachの最後の文字「h」にちなんだh-moll(ロ短調)で書かれており、暗にシンフォニア集の巻末を示している。(ちなみにインベンションの第15曲目もロ短調で書かれている。)シンフォニア集の中で、様々な作曲技法を披露してきたが、まるでその厳格さに縛られているだけではいけないとばかりに、どのように発展するか読めない自由な発想、逸脱を繰り出している。

奇想曲のようなつくりほぼ全体が2声で書かれており

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