好奇心で猫は動く
猫と散歩するのが好き。
ふらりと帰宅した飼い猫が催促するので、今夜はちょっと(猫的に)遠出して、近所の公園に行くことにした。
普段は我が物顔に闊歩する猫も、見知らぬ場所へ行く時は足取りが重い。
それでも、猫特有の好奇心には勝てないのか、私の後をのったりと付いてくる。
時計はとうに0時を回り、冷え込みは相当。
出掛けに着てきたコートのポケットに、コーヒー缶を入れて暖をとりながら、歩くこと7分。
公園に入ると、何だか人の気配がする。
警戒しながらも、猫と同じ位の臆病さと好奇心で、植え込みの陰から、こっそりと気配のする公園の中心辺りを覗く。
そこには二人分の人影。男女一人ずつのよう。
女の方から、何か小さな包みが手渡され、男が大事そうに受け取っている。
突然、遅れて着いてきた飼い猫が、屈んだ私の背中に飛び乗り、思わず、声にならない叫びを上げてしまう。
二人の人影が同時にこちらを向いた。
私は慌てて猫の鳴きまね。
肩の飼い猫がびくっとして周囲を見回す。
それ位、本職の猫も惑わす会心の鳴きだった。
人間ならば言わずもがな、二人は再び会話に戻った。
女に促されて、包みを開ける男。
中から何か小さなモノを取り出すと口に運んだ。
それを見て、今日が何の日だったかを思い出し、なんだか、ちょっと切なくなる。
そのまま見ていると、男がゆっくり倒れた。
また声を上げそうになっていると、女の方も同じように包みの中のモノを口に運び、倒れて。
私がその一部始終を見守っている間、捨てられた毛布の上で香箱を組んでた猫が、前延び後ろ延びをして、足元でなつく。
コーヒーは、すっかりぬるくなっていたけど、何か、えも言われぬ興奮が私を熱くしていた。
こんなにドキドキするバレンタインデーは初めてかもしれない。
昔々、テキスポにて行われた800字お題小説に投稿したもの。
テーマは「公園・猫・バレンタインデー」
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