その背中は未来を変える、かもしれないから
何はともあれ時間がない。
自分はあまり「勉強しなさい」と言われずに育ち、漫画ばかり描く子になったからその調子でいたら、漫画ばかり読んで漫画描かない小学生と、漫画も読まないし勉強もしない小学生が出来上がった。
おっとこれはと思って気を引き締める。せめて日々の宿題くらいは。
でも本当はもっといろんなことを経験させてあげたかった。
テニスや野球を頑張ってる同級生を見れば焦り、空手を5歳からやってる子がいれば「うちのsくんにも…」と思って自分のリソースのなさに首を振り、「バレエがやりたい」と4歳のWちゃんに言われたらそっと話題をそらす。
一番辛いのが、なかなか料理を作ってあげられないことだ。おばあちゃんに頼り、外食に頼り、宅配に頼る。お米を炊くので精一杯。
(この間編集部にお米を送ってくれたファンの方がいて
ひとめぼれしそうになった)
本当は一緒に買い物したり調理したり、そんな時間を持ちたい。
気持ちばかりがあふれてやるせなくなる。本当は料理も好きなのだ。
特に男子は、積極的に家事に参加させないと「自分がやること」と認識できないのではないか。
そんな思いでいるけれど、掃除も調理も洗濯も一緒にやるより一人でやった方が早くて、大慌てで一人で片付けてしまう。そこには時短の工夫はあってもコミュニケーションや教育への工夫がない。
できてないこと、そのままで時間が過ぎていくこと。
それをとても苦しく思って気持ちばかりが焦る。でも締め切りの方が早く来る。ああまた男の子たちに何の促しもできなかった。
そんな時ふと夫が言った。
「父親が台所に立っているのを見せることの方が大事」
八ヶ岳にて。おじいちゃんと孫二人。
夫のお父さん、義父の話をよく聞く。
しょっちゅう無職時代があった義父は、夫が2〜4歳の頃は専業主夫で、子供のために毎日食事を作っていた。
その頃よく作っていたバター多めのクレープ。焼きそばでも何でも味付けが濃いめで、デパートで働いて家計を支える義母は「こんなに濃い味で・・・」と心配したけど、そのまま育ったと。
義父の職が安定しないから貧乏で、しょっちゅう電気が止められそうになる家の話を聞いたときは「マジか」と思った。
それでも家族仲はよく、父親を尊敬していることを夫から感じるのだ。
夫はスクスクと濃い味好きに育ち、台所に毎朝立ってはバター多めのオムレツを子供たちに作ってくれている。
家事の約4割と、PTA・保育園の役員・マンションの理事会、子供の通塾と予防接種の担当は夫で、子供と一緒にいる時間は夫の方が長い。
時間のかかる漫画の仕事を抱え、思うように子供たちにしてあげたいことが出来ない中で、時々悔しくて、申し訳なくて泣きたくなる。
それでも「ママが仕事をとても大事にしてる」「パパはママの仕事を守らなきゃと思ってる」「家事はできる方ができる分だけ頑張る」ということだけは、夫のおかげで見せることができている。
(「パパは飲み会にはいつでも行く」ということも。)
料理のスキルなんて、これから先どれだけでも知りたい時に学べる時代なのだ。
「だれであっても、家事の主体である」「だれであっても仕事を大事にしていい」という感覚を、まず子供たちに得ていってもらえたらと思う。
そして、そんなおじいちゃんから連なる連鎖はうちにはなかったな〜〜と思う人は、その連鎖の始まりの一人に今からなれる。
だってここまで読んでくださったんだから。(読んでくれてありがとう!)
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末次由紀のひみつノート
漫画家のプライベートの大したことないひみつの話。何かあったらすぐ漫画を書いてしまうので、プライベートで描いた漫画なども載せていきます。
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